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DPI行動ターゲティング広告の実施に対するパブリックコメント提出意見 - 高木浩光@自宅の日記

これは、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会 第二次提言」のことだろう。「ライフログ活用サービスに関する検討について」の中に「ディープ・パケット・インスペクション技術を活用した行動ターゲティング広告について」という節がある。(電気通信事業者の取扱中に係る通信の傍受のことを指して「ライフログ」を呼ぶのには強い違和感があるが。)

この提言は、4月9日から5月10日にかけてパブリックコメントにかけられていたので、私も意見を提出した。提出した意見は以下のとおり。

■意見2: DPI広告事業者の透明性は検証不能であるから第三者による監査を義務付けない限り実施を認めるべきでない
ライフログ活用サービスに関する検討、DPI技術を活用した行動ターゲティング広告

理由

提言案は、DPI技術を活用した行動ターゲティング広告(DPI広告)の実施は、通信当事者の同意がない限り、通信の秘密の侵害行為であって違法性も阻却されないとしており、その通信当事者の同意についても、「その意味を正確に理解したうえで真意に基づいて同意したといえなければ有効な同意があるということはできない」としている。この点について、提言案は、最後の段落において、同意にあたっての判断材料として、「利用者に対してサービスの仕組みや運用について透明性が確保されるべき」とし、「各事業者は、透明性の確保に向けて運用にあたっての基準等を策定し、これを適用することが望ましい」と結んでいる。

そのような結論に従う場合、DPI広告を提供する事業者は、おそらく、そのサービスがいかに利用者のプライバシーに配慮したものであるかを説明し、たとえば「Webメールの内容については傍受しない」といった説明をして、利用者の同意を得ようとするであろう。また、利用者も、そのような配慮がなされているからこそ、同意してオプトインできるものと考えられる。

しかし、DPI広告の場合、そのような配慮が本当に実施されているかは、外部からは誰にも検証できない。これは、従来の行動ターゲティング広告にはなかった新しい事態である。従来の行動ターゲティング広告では、専門家がWebブラウザの挙動等を調べることによって大方その影響範囲を推定できるものであった。それに対し、DPI広告のシステムは、実際に何をやっているかは事業者のシステムに侵入して調べるなどしない限り第三者には検証できないものである。

そのような検証不能なシステムについては、事業者の説明があるからといって透明性が確保されたとは言えず、通信の秘密という重大な事項についての同意にあたっては、その程度の透明性で有効な同意があったと見なすべきではない。

したがって、DPI広告実施事業者の説明が真実であることを検証する第三者による監査を義務付けない限り、このようなサービスを合法と認めるべきではない。

つまり、10年前に登場したDoubleClick等の方式や、一昨年の「楽天ad4U」のケースなどでは、Web技術者が解析すればそこで何が行われているか、そして、何は行うことができないものなのかを調べることができたのに対し、電気通信事業者によるDPIでは、基本的に何でも可能なのだから、たとえば「Webメールの内容は見ていない」と言われても、本当にそうなのかは、私たち一般市民からでは調査することが不可能である。だから、法的権限を持った機関による監査が不可欠であるとした。

http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20100530.html#p01


◇ 「ネット全履歴もとに広告」総務省容認 課題は流出対策 - asahi.com朝日新聞社
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