ロシア・フォルマリズムの発祥地ソ連ではスターリンの死後,構造言語学が発足し,ついでモスクワ・タルトゥ学派を中心に文化記号論が発足した。この文化記号論の核として構造詩学を展開したのはYu.M.ロートマンで(《構造詩学講義》《芸術テキストの構造》ほか),彼は構造言語学,情報理論,情報美学,一般記号論の諸概念によるロシア・フォルマリズムとバフチンの諸成果の読み直しを行った。日常言語も世界のモデルだが,その上に築かれる芸術言語は,より全体的で濃密な世界のモデルをなす第2次モデル形成体系である。この第2次モデル形成体系こそ文化記号論の研究対象たる文化テキストであり,彼は文化テキストとしての芸術テキストの構造の解明とともにさまざまな文化テキストのタイポロジー研究を行い,さらに文化テキストの総体としての文化の惰性化と活性化のメカニズムを明らかにした。