ジャン=リュック･ナンシー「遠くの都市」（1999）より
都市の拡散、その蒸散、その機能と場所の周辺の空間への消散がこのようにおこなわれて、周辺の空間は中心が逸出するにつれて周辺的ではなくなるが、中心はそれでもなお中心的でありつづける。中心は至るところに到来して周縁はどこにもないか、あるいはその逆になる。あらゆる都市機能の末端と中核の交差と脈動、凝集と波動がある。都市機能は電話とエレクトロニクスのチャンネルによって配分しなおされ、都市の外でますます広い範囲で下方と上方へ転送される。
都市は、場所（リュー）とは別のものが生じる一つの場所（リュー）である [中略] 都市も同様に自らの商業的、商売じょうずな本性（ナチュール）、仲介人的（ネゴシアント）な本性を抑圧すると同時に称揚もする。言い換えれば、休みなく、自らを省みることなく、どこででも開かれ、交換と流通、輸送、移動、仲介と投機に忙しく働くというのが、その本性なのだ。 [中略] 都市には共有される自然（ナチュール）もなければ超自然（シュルナチュール）への処方もない。あるのは違った空間である。人はあらゆる方向で取り引きをし、身元を明らかにしないが、自覚をしていないわけではまったくない。取り引きは平等、だが、共同体の取り引きではない。共同体を超えて、あるいはその手前で、際限なく交換を交渉しなおし、分配をしなおし、役割を演じなおす。
都市のすべての場所は、それぞれに別の場所を指し示し、その指示のうちにしか存在しないか、あるいは、その指示によってしか成り立たない。それらの場所は完全に閉じられることはない。閉じられたところは都市から退くが、都市はあらゆる囲いを揺るがす。ケーブル、ダクト、電線とパイプ、雑音と喧噪、流体と記号が、あらゆる路に沿って這い回り、配管や階段室を伝って、屋上とドアの下にまで至る。さまざまな流れ、さまざまな力、推力があらゆる方向に循環して、エネルギー、情報、食料、管理、監視、保全の伝達をする。
ジャン=リュック・ナンシー ジャン=クリストフ・バイイ『遠くの都市』（青弓社）所収
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◇ Jean-Luc Nancy
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