Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

林道郎『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』

あるものが「美しい」とか、いや、「美味しい」でもいいと思いますが、そう感じると、必ず誰か他の人──往々にしてそれは、近くにいる友人や家族であることが多いのですが──に伝えて同意を得たくなります。「これって、きれいだよね」と新鮮な感動に震える心のまま同意を求める。そのとき、「ほんとにそうだね」と同意が返ってくれば、そこに感動の共同体が生まれるわけですが、「う〜ん」と言われたり、力ない同意だったりすると、自分のほうがおかしいのかと不安になったりする。だからこそ、逆に言うと、何かについての美的判断は、うかつには言葉にできないという側面もあります。普遍妥当性への確信、あるいは欲求があるがゆえに、その期待が裏切られたときの「引き裂かれ」感も大きいわけですね。つまるところ、美的判断は、私と社会がそこで微妙に、しかも鋭く交錯する領域なわけです。

第5巻: Natsuyuki Nakanishi 中西夏之 より
http://www.arttrace.org/books/details/live_twice/nakanishi.html
http://pg-web.net/scb/shop/shop.cgi?No=132