Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

近藤恵介「いい地図」@Gallery Countach

2月23日(土)〜3月23日(日)
Opening Party:2月23日18:00-20:00
After Party:2月23日 23:30-05:00 at Galaxy Countach
※土・日のみ開廊(平日来廊時にはアポが必要)
http://gallery-countach.com/


◇ Keisuke Kondo - カウンタック支離滅裂ダイアリーズ
http://blog.gallery-countach.com/?eid=477050
http://blog.gallery-countach.com/


◇ 近藤恵介 -アーティストファイル:CINRA.NET
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20071222#p4


マッピング・ザ・ワールド 文=宮村周子

 近藤恵介の絵に、新しく植物の鉢植えが描かれるようになっていた。街を歩いていると、道ばたや高架下に点々と鉢植えが置かれているのが気になって、「ポータブル森みたいだ」と思ったんだそうだ。たしかに、緑の点をつなげていけば、頭の中では森になる──そんな彼のピースフルな発想が可笑しくて、想像の景色が一気に広がった。 2007年春、東京芸術大学日本画科を卒業する際、彼が描いたのは、横に長い山並みの絵だった。画面の上方すれすれに山脈が連なって、日常のオブジェもパラパラ散らばり、中央に大きな三角模様が描かれている。山のモチーフはよく作品に登場するので、さぞかし山登り好きなのかと思いきや、別にそんなことはなくて、ただ、使い慣れた色鉛筆のパッケージのマッターホルンをサンプリングしてみたのがきっかけだと言う。むしろ、作品に描くようになった後に、山登りにチャレンジしようと思いたち、夏の富士山に挑んだというから、面白い。結局、初登山は嵐のため断念したそうだが、そうやって作品に浮上した小さな関心事が、めぐりめぐって自分の行動を後押しするという成り行き自体が、リアルな連想ゲームみたいだと思った。原因も結果も関係ないのだ。  どちらかというとグラフィカルな印象を与える近藤の作品は、日本画の技法をベースに、アクリル絵具や水彩などを混在させたハイブリッドな絵だ。人の顔や服、テレビ、図形……脈絡ない日常のアイテムは、とくに意味なく選ばれていると言う。たとえば新作では、下描きなしに画面の上方から思いついたものを描き、それに反応するままに次のモチーフを描き加えていく。フラットな日本画技法がしっくりくるものもあれば、陰影をつけて再現性を高めたいアクリル絵具向きのものもある。無理に統一感をもたせず、対象によって画材や技法を使い分けて描くと、すべてが自然な配列で画面に収まってくる。そうして、雑多な日常の風景が再構成され、淡々と描写されていく。  日本画を専攻したのは偶然で、旧態依然とした日本画界にとまどいを感じつつも、彼自身は芸大出身者特有の反体制的過激さとは無縁に見える。入学当初、音楽への関心が強かったことも、表現のバランスがとれた理由かもしれないと言う。絵が楽しくなってきた今では、美術と音楽は「補完関係」にあり、ロゴをつくりたくて立ち上げた自身のレーベル、マウンテン・ミュージック・レコードでは、蓮沼修太と音のコラボレーションをした第一弾CDがリリースしたばかりだ。近藤がジャケット・ワークを描いた同世代のミュージシャン、蓮沼の音楽は、曲ごとにまったく違う世界へ連れて行ってくれるトリップ感が心地いい。コンピュータやネットで自由に音源にアクセスできる電子音楽の軽やかさは、どこか近藤の絵のもつ風通しのよさとも通底している。  学生時代に、経文と絵を対応させた8世紀前半の巻物『絵因果経』の模写をしたことが、今にも影響を与えていると言う。剥落や紙の変色、退色まで再現する模写のごとく、まっさらな和紙にあえて染みを描き、古文書のような風合いを出している。すると、描かれたものが意味深な記号のようにも見えてくる。最近地図がマイブームだという近藤の絵には、ジョン・ケージチャンス・オペレーションのようにものの断片が集まり、その集積から、見る人が自由に想像の道筋をたどっていく。そうして脳にゆるやかな時間軸が生まれ、多様な想像空間が浮かび上がる。サイコロを振って行き先を決めるような、ライトな旅の始まりだ。  近藤の絵には、会議中の人物の姿が繰り返し登場するが、新作展のテーマは「いい会議」なんだそうだ。それぞれ違う主観をもった人が集う会議の席で、創造的な着地点を見出すのはたやすくない。でも、寄り道をたくさんしながら、ひとつの目標に向かって足並みが揃い、登山のように一緒に未知の領域にたどりつけるのだとしたら、それは本当にいい会議になるかもしれない。  自分だけで、ときには人と一緒にパズルを組み立てられる遊びの作法。そこには、主観と客観、現実と非現実、意識と無意識、そして複数のジャンルが、いい具合にミックスされている。不毛な理論や過剰な物語性のないフラットな近藤の絵は、受け手の右脳をポジティブに刺激する、寛容でオープンな想像力の地図だ。

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