Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

川内倫子写真展「Semear」@FOIL GALLERY についてのメモ

[会場構成]

  • ブラジル点描

 ▽通常の35mmやパノラマ写真など20〜30点ほどのカットで構成されたインスタレーション
  [例]http://www.pingmag.jp/images/article/kawauchirinko03.jpg
 ▽大小サイズを変えてメリハリをつけて色彩にも気を配っているが、
  「川内倫子」という名前を外してしまえば、
  リクルートの「ひとつぼ展」やキヤノンの「写真新世紀」といった公募展、
  レンタルギャラリーでの写真展などでよく見る展示の形式と一見してそれほど変わらない印象。
  森澤勇 + 森澤ケン「Morisawa Photo Shop」@art & river bank(http://d.hatena.ne.jp/n-291/20070922#p4)での
  森澤ケンくんの圧倒的な壁面構成力を見ているだけに、やはり普通に見えてしまう。
 ▽展示の導入にあたるこの「ブラジル点描」部分は、どちらかというと、
  サンパウロ近代美術館のコミッションワークだということが前面に出ている写真。
  会場後半の100cm×100cmの写真は今回のコミッションワークのなかで、
  より川内さんのパーソナルな興味、作家性が反映されている写真。
 ▽カメラマン(フォトグラファー)が、仕事で「ブラジルを撮ってくれ」と
  頼まれた場合に撮るような写真との差異化はうまく図られているように思える。例は割愛。
 ▽現在のブラジル社会を描こうというような方向性ではなく、ささやかな日常の営為への興味。あと動物。
 ▽やはり極小と極大しかなく、その中間が抜けているような印象あり。
  これをすぐに「セカイ系」という言葉と結びつけて批判するのは容易ですが、
  川内倫子さんの写真の場合は、そういう切り捨て方をしたくありません。
  |片山恭一世界の中心で、愛をさけぶ』表紙写真
  |http://www.amazon.co.jp/dp/4093860726
 ▽スナップ写真の難しさが、ところどころに出ている。
  写真集の流れで見せれば目立たないのかもしれませんが。
  コミッションワークでの鬼海弘雄さんの惨敗ぶりを思い出しました。
  |『In-between 8 鬼海弘雄 ポルトガル、マルタ』
  |http://www.amazon.co.jp/dp/4903152073
  ※ジャン=マルク・ビュスタモントの35mmカメラによるコミッションワークはブラジル? アルゼンチン?
   あれは普通のスナップ写真のように見えて、やはり奇妙な感触を残していたような。
   http://d.hatena.ne.jp/n-291/searchdiary?word=Jean%2dMarc%20Bustamante
 ▽ビルから街を眺望する風景を撮ったパノラマ写真。
  なぜカメラを少し上に振っているんでしょうか。その理由が謎。
  このカットを選んだ理由もよくわかりませんが、個人的な思いがあるのかもしれません。
  空と雲の分量を増やそうとしたのかもしれませんが、雲の形が良いということもなく、
  かといってレンズに光を入れてハレーションやゴーストの効果を狙ったわけでもない。

  • カーニバルの桟敷席(?)

 ▽夜空に何かが舞っている。
 ▽おそらく35mmカメラで撮った写真を大伸ばし。長辺は1.5m程度?
 ▽瀧本幹也さんが大型カメラで撮ったリオのカーニバルの桟敷席(2.0m弱×2.5m弱?)
  と比べると、ピントは合っていないし、画質も全然良くないが、
  引き伸ばしによる粒子の出方が程よい感じでむしろ上手くいっているという印象。
 ▽この不鮮明さが過去の記憶を誘う場合もあり。

  • 足跡
  • 蘭の花一輪
  • 赤ちゃん

 ▽ここから展覧会の本編という感じで、
  ギャラリーのメインスペースに額装された100cm×100cmのプリントが並ぶ。
  >>>FOIL vol.1"Co-exist"@FOIL GALLERY
  http://d.hatena.ne.jp/n-291/20071015#p10
 ▽最初のブロック(というわけではないが導線的にここに目がいく)は、
  コの字型の空間の左手に足跡、奥に蘭の花と赤ちゃん、右に滝の写真が展示されている。
 ▽砂地に点々と残る足跡のカットは、
  右から左へ横切るように子供のものらしき足跡がついた写真。
  奥の壁面に向かう左から右ではなく、右から左であることに注意。
  この時点でこの展示の見方がリニアなものではないことを示唆している。
  左にいくほど足跡が遠ざかっている。
  ストロボを使用していたかどうかは思い出せず。
 ▽奥の壁面は、蘭の花の色と赤ちゃんの服の色で組み合わせている。
 ▽蘭の花は、フレームアウトするくらい近づいている。
  しかし、ピントは浅く、その位置は
  花の芯には合わせられてはいない(やや記憶があいまい)。
  正方形と花という対象、色相の違いによって、目は中心に向かうが、
  その中心を捉えづらくすることで、視線を拡散させるという方法。
  川内倫子さんの名前がなければ、誰の撮った写真かまったくわからないカット。
 ▽横たわる赤ちゃんの上半身を撮った写真は、ピント浅めで赤ちゃんの左目、
  つまり奥のほうにピントを合わせている。ややブレているのかピントの芯がやわらかい。
  職業カメラマンならあえてラフに撮ることで、
  臨場感を演出する場合にしか採用しないような撮り方だが、
  フォトグラファーを自称する人には、こういった撮り方をした写真を混ぜて
  目先を変える(変化をつける)ことも多いように思われる。カルチャー系雑誌とか。
  赤ちゃんの手前のシーツには、加藤美佳さんのペインティングを思わせる非常に小さな赤いドット、
  というか何か染みのようなものが点々と付いている。よく見れば決して綺麗ではない。
  くだものか何かを食べたあとの染みか、何かの食べカスか。あるいは血痕のようにも見える。
  無垢なる存在である赤ちゃんが主題の写真に、生きることによる穢れ(染み or 血=女性には
  より多くの意味をもつかもしれない)が、それとなく入っているものを選ぶということ。
  あと、淡い紫というか、ピンク色のベビー服は、
  この赤ちゃんが女の子であることをほのめかしている(写真だけでは、どちらかわからないが)。
 ▽表情がじつはよく思い出せませんが、どの感情ともつかない微妙な表情だったような。
  どちらかというと、不安、あいまい、空白。
 ▽滝の写真は、流れ落ちる水が光を受けて輝いている様子を捉えたキャッチーなカット。
  メインスペースに展示されている写真のなかでは、いちばんわかりやすいというか、
  ダイナミックな切り取り方に、光の効果と淡い色彩があいまって、
  多くの人の心をつかみやすいカットだと思われる。
  滝との距離を詰めて、余計な要素が画面に入らないように撮っている。
  かなり寄って撮っている印象もある。ここまでの4点の流れで鑑賞者を
  川内倫子さんの作品世界に、グッと引き込むためにも、
  余計な要素を排除する必要がある。鑑賞者を現実に引き戻さないために。
 ▽ここまでの4点は女性、女性性、命を育むこと、生と死のうちの「生」を描いている。
  ・子供の足跡→成長
  ・蘭の花→女性、成長、育成、育成による成長の観察、生殖
  ・赤ちゃん→生命、成長、育成、捕食、排泄
  ・滝→生命、女性、女性性、生殖

  • おばあちゃん(グランマ)

 ▽おそらく日系人であろう年老いた女性。
 ▽バストアップで撮られたポートレート。背景は比較的プレーン(やや記憶があやふや)。
 ▽顔を画面のど真ん中にもってきている。画面の上半分を空けている。
 ▽腕や手は画面に入っていない。
 ▽顔に深く刻まれた皺。こちらを睨むかのような強いまなざし。

  • ラジオ体操
  • カーニバル
  • ワニ

 ▽このパートを見るまえに川内倫子さんの写真集について考えてみたい。
 ▽川内さんの写真集のなかでは、いちばん気になる『うたたね』を古書で入手。
  帯は木村伊兵衛賞受賞後に差し替えられたもののようですが、
  「死んでしまうということ」というコピーが当初のものと同様に入っていました(文字は少し小さくなっている)。
  |参考:初版の帯?
  |http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/4898150527/ref=dp_image_0?ie=UTF8&n=465392&s=books

 ▽巨視的カットと微視的カットの組み合わせ。
 ▽ダッチアングルの傾き具合と色彩。
 ▽アマゾン川のカットには、
  ポロロッカアマゾン川を逆流する波)が下のほうに写っているが
  そこを強調するようには撮られていない。
  右辺の下のほうで、蛇行する川が一度フレームアウトしている。
 ▽アリのカットは、アリの死骸のようにも見える。アリの大きさが不明。
  アリの胸部と腹部の間にさらに小さなアリが取り付いているように見える。
  写真が大きくのばされているので気づきづらいが、全体を覆う人間のかたちにも見える大きな影。

  • ぶどうの載った絵皿
  • カーニバルの女性(後ろ姿)

  • 牛(?)の皮と骨と糞
  • 針刺しにビーズまち針




>>>疑問
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080507#p3


>>>「写真の九〇年代──受容の観点から  倉石信乃」より
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080521#p2


>>>清水穣『白と黒で──写真と……』(現代思潮新社)より その1
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080521#p3


>>>清水穣『白と黒で──写真と……』(現代思潮新社)より その2
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080522#p2


>>>清水穣『白と黒で──写真と……』(現代思潮新社)より その3
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080523#p4


川内倫子写真展「Semear」 東京では約4年ぶりとなる川内倫子の写真展を訪れる(調文明) - TABlog
http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2008/05/kawauchi-semear.html