Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

再録(http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080220#p7)

■j_essay06 座間裕子 / 2004年7月4日(日) - view from elsewhere

ウィーンという場所は、電子音楽の世界における極上の果物を生み出している産地、という気がする。そうやって熟した音楽やアーティストを、「ひょいっ」ともぎとって市場に出すのがアメリカや日本やイギリスという国なのかもしれない。

もちろんそうやって目をつけて売り出してくれる海外のメディアや音楽ビジネスが存在しなければ、 MegoFennesz も Radian も有名にはならなかっただろう。それはそれでいいのだけれど、ウィーンという場所で、利害をあれこれ考えたりせずにピュアな精神をもってクリエイティブな音楽を作り続けているミュージシャンの姿勢や、そういう音楽を手塩にかけて大事に育てている人々のあり方には、世俗的な駆け引きの世界から隔離されたイノセントな美しさがあって、彼らを見ているとなぜか時々胸が痛む。

「rec.extern」のヒットがあり、そして高名なエンジニアのジョン・マッケンタイアーの名前がクレジットされたことで、このバンドの知名度が上がり、今までラディアンの存在を知らなかった人々の耳にも広く彼らの音楽が届くようになったのは、素晴らしいことだと思う。そしてそれにより、それまでこのバンドを支えてきたエンジニアのクリストフ・アマンの存在も脚光を浴び、たとえばデヴィッド・シルヴィアンのような大物アーティストも彼のスタジオでレコーディングをするようにもなったりしている。こうして、極上の果物を生み出した産地と、それをもぎとって市場に出した人々の関係は、一見持ちつ持たれつの理想的な関係を生んでいるようにも思える。でも、スタジオエンジニアとして数年来、自分が強い思い入れをもって一緒に音楽を作ってきたバンドを、ひょいとアメリカの有能なエンジニアにもっていかれてしまうというのも、つらいことだったのではないかと思う。

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