Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

林道郎『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない 第7集: Ross Bleckner ロス・ブレックナー』より

 そのように転倒した、あるいは正常化された視点から見れば、モダニズムの自立性という概念によって加速される芸術のフェティッシュ化は、逆に、輪郭をもった世俗の存在者=コード化された商品へとたやすく転換されてしまう契機を孕んでいることになります。それに対して、彼が拘泥する生々しく世俗的な欲望の関係のほうが、流失してしまった何か=欠如によって起動させられる根源的なエロスとして「超越的」ともいえるような事態を示唆していると言いたいのかもしれません。それを、「自律」という概念を手がかりにして少し別の角度から見れば、エロス=愛の関係は、他者との融合(の幻想)によって「自失」するという関係でもあって、その意味で、安定した自己意識──近代社会のイデオロギーとしての個人主義──に対して「超越的」であり、しかもその消失の中でつねに新たに「私」が変成されていくという意味で反固定的だということができるでしょう。逆にモダニズムフェティシズム的な態度は、そのような消失と変成のエネルギーを固定化したルートで制御し、エロスの超越性・多産性をコントロールすることによってフェティッシュとしての対象へと凝固させようとする欲望の統制経済だということになります。

http://www.arttrace.org/books/details/live_twice/bleckner.html
http://pg-web.net/scb/shop/shop.cgi?No=257


◇ 『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』完結 - INSCRIPT correspondence

 1:サイ・トゥオンブリ(Cy Twombly)
 2:ブライス・マーデン(Brice Marden)
 3:ロバート・ライマン(Robert Ryman)
 4:アンディー・ウォーホル(Andy Warhol
 5:中西夏之
 6:ジグマー・ポルケ(Sigmar Polke)
 7:ロス・ブレックナー(Ross Bleckner)

それぞれは小さな本ですが、密度は濃く、啓蒙的かつ創発的。美術批評のコンテクストをふまえながら、逐一の作品に当たって精査をくわえ(図版は多くがカラーで収録されています)、そこから批評の言葉を立ち上げていく、という手付きは当今貴重なものだと思われます。そもそもこの種の「絵画批評」というものを読める機会自体があまりありませんから。それほど知られていない画家も含まれていますので、なおさらのことでしょう(ライマンやポルケのように、レクチャー後に回顧展が日本で開催されることになったケースもあります)。

小社では林道郎さんの論文集を準備しております。20世紀後半の美術批評の水脈を再検証し、再活性化させる、という目論見の一書。美術論の、ある種のマトリックスをつくる試みでもあります。タイトル未定。2010年の刊行見込みで、目下、既存原稿大改稿中(のはず)。詳細はまた刊行のさいに(ということは来年ですが……)当欄にてご案内いたします。

http://inscriptinfo.blogspot.com/2009/08/blog-post_20.html


林道郎ゼミ - ART TRACE
http://www.arttrace.org/seminar/hayashi/hayashi.html


http://d.hatena.ne.jp/n-291/20060328#p4