Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

シンポジウム「批評」 - Diary written with English language skill at dog level

4月にTWS本郷で見た「絵画」をテーマにシンポジウムが面白かったので、そのイベントの主宰者であった「美術犬」が、今度は「批評」をテーマに美術評論家をパネラーに揃えてシンポジウムを行なうというので、昨日小雨の降るなか横浜まで見に行ってきた。
出演者は司会の雨宮庸介(美術家。以下司会者)、土屋誠一(美術批評家、沖縄県立大学講師。以下批評家A)、沢山遼(美術批評。以下批評家B)、粟田大輔(東京藝術大学玉川大学非常勤講師。以下批評家C)の四人。批評家Aの説明によると、何人かの同世代の批評家に参加を要請したが断られたので「結果的に」この顔ぶれになったのだという。前回の「絵画」シンポジウムのメンバーだけで「絵画」のすべてが語れるはずがないのと同様、この三人の顔ぶれで「美術批評の現在」の全てが総括できるとは思えないし、主宰者も端からそんなことは意図していないだろう。しかし「絵画」シンポジウムのとき同様、この三人のパネラーの批評家としてのスタンスの「差異」から、広く「美術批評」ないし「美術批評家」そのものを照射し、そのいくつかのプロトタイプを導き出すことは可能であると思う。そういう意味では、なかなか面白い組み合わせだったのではないだろうか。司会者が美術家であるということも効果的に働いていて、門外漢である俺などでも「批評」や「批評家」の本質に一歩近づけたような、そんな感覚を持てた好企画であった。

さて今回のパネラーである三人の批評家であるが、彼らの「作品」や「美術」、あるいは「批評」に対するスタンスを俺なりに勝手にまとめると以下のようになる。


批評家A:1975年生まれ。第12回芸術評論入賞。「美術犬」主宰者の一人。もともと「美術」に対して特別な関心があったわけではなく、美術評論をやるようになったのも偶々。一番やりたいことは「書くこと」だった。究極的には「作品がなくとも美術批評は書ける」と思っている。「美術」を語る言葉の歴史的な構築の必要性を感じ「美術犬」の活動や今回のシンポジウムなどを主宰する。


批評家B:1982年生まれ。第14回芸術評論入賞。中学生の頃から美術に対して関心を持ち始める。しかし創作=0から何かを作り出す行為は、自分にはとても出来ないと端から諦めていたのに対し、批評は二次的なもの(まず最初に作品があって、それに対して生まれるもの)であるので、それならば自分でも出来ると思い興味を持った。批評とは単に独善的な「主観」を述べても仕方がないものであって、ある作品についての「合意」を求めるものである。その意味では「他者に成り代わって書く」という側面もある。


批評家C:1977年生まれ。第13回芸術評論入賞。もともと建築を学んでいたがプライベートな理由により、たまたまそれまで関心のなかった美術へと専攻を変えた。美術について文章を書く自分と、「それ以外」の自分を完全に分けるようにしている(美術以外の事柄について文章を書くときはペンネームを使用することにしている)。美術批評はまず作品があって成り立つものであり、作品が全てだと思っている。

最後に、今回司会者が同業の批評家ではなく、美術家であったことは実は大きかったのではないだろうか。それも「批評家言語」をペラペラ喋るような美術家なんかではなく、ちゃんと我々と同じ言葉で喋る美術批評の「門外漢」であったことが、議論を机上の空論にせず、我々の生きる世界とも地続きの場所にある問題として感じさせてくれていたように思う。発言の機会はそれほど多くはなかったが、彼の発言や質問、そして態度(批評家Aと批評家Bのプレゼンのあとにはスムーズに質問が繰り出せたのに対し、批評家Cのプレゼンが終了したときはしばらく呆然として「えーーーと、なにを喋ればいーのかなー・・・」みたいな状態になっていたのはあまりにも的確で笑えたw)は、どれも議論を進める上で有効だったと思う。
あと彼が批評家Cから「美術批評って読む?」とツッコまれたとき、ウッと数瞬詰まったあと「すごく・・・読まないですね」と答えて会場の笑いを誘っていたが、それに続けて彼が「BTとかを読んでいても目が滑ってしまう」「でも批評も作品と同じですべてを読む必要はないと思うし、別に読まなくてもいいものもたくさんあると思うが、真に読むべき価値あるものもあると思う。その本当に読むべき美術批評がいったいどこにあるのかその情報がまったくなくて読み逃している現状というのは、なんと言うか・・・ホントにモッタイナイと思う」と発言していたのにも大いに共感したし、美術批評の置かれた現状の一端をその言葉が表しているようにも感じられ、印象的だった。


おそらくその司会者以上に美術批評を「すごく読まない」くせに、無根拠に「美術批評家は全部敵だ!」などと勝手な敵意を抱いているのが他でもない俺なわけだが、少なくとも今回のシンポジウムを聞いて、一口に美術批評家と言っても「美術」や「作品」や「批評」に対するスタンスはほんとうにいろいろあるんだなということはわかった。このあいだラジオで言ってたんだけど、なんでも昨今「生活騒音」をめぐるトラブルが急増しているのは地域の住民間のコミュニケーションがなくなり、隣に住んでいるのかがどういう人間かもわからなくなっている現状に由来している(つまり隣の家に住んでいる人間がよく知った人間であれば、立てる物音もそれほど気にならない)んだそうだ。それに倣って言えば、その「スタンス」を理解することは、少なくとも相手を無根拠に敵視することの緩和くらいには繋がるかもしれないw。これからは俺も横着せず、少しは美術批評を読んでみよう。


・・・でも、美術批評ってイッタイどこで読めるもんなんだ?
・・・まずはそこからして、問題だよな。。。

http://blogs.dion.ne.jp/drawinghell/archives/8882096.html
水野亮さんのブログより。


◇ シンポジウム「批評」 多謝! - 美術犬 (I.N.U.)

シンポジウム「批評」、おおくの方々がご来場くださりました。

ありがとうございました!


気鋭の美術評論家たちが熱の入った言葉を発し、ただならぬ緊張感が漂うなか、三時間の長丁場があっという間に経過しました。

今回行われた議論をもとに、何らかのかたちで「批評」第二弾を行うかもしれません。

乞うご期待!

今回行われた討議も、シンポジウム録公開に向けて、現在鋭意編集作業中です!



次なる「美術犬(I.N.U.)」企画は、12月27日(日)開催予定です。

テーマは、「美術・社会・革命」(!)。

当日何が起こるのか、はたまた本当に革命が起こるのか、「犬」メンバーにもわかりませんが(笑)、とにかく何かが起こります!!

企画詳細は、近日中にお知らせします。

ぜひ会場に足をお運びいただき、目撃してください!!!

http://bijutsuken.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-5f46.html

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>>>増山士郎のクシャミ〜第1回所沢ビエンナーレ美術展「引込線」 - Diary written with English language skill at dog level
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20091013#p6

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※以下、web complex(http://genbaken.com/)より水野亮さんの展覧会評をピックアップ。


◇ 2006年11月07日 空間に生きる─日本のパブリックアート展 - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2006/art_review061107.html


◇ 2006年12月28日 大竹伸朗「全景1955-2006」“ある平凡な絵描きの半生(全景展追想)” - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2006/art_review061228.html


◇ 2007年01月30日 日本美術が笑う/笑い展 - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070130.html


◇ 2007年02月06日 第10回岡本太郎現代芸術賞展 - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070206.html


◇ 2007 年03月16日 夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史1.関東編 - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070316.html


◇ 2007年04月23日 レオナルド・ダ・ヴィンチ─天才の実像 - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070423.html


◇ 2007年05月06日 マルレーネ・デュマス─ブロークン・ホワイト "暴力に焦がれる絵画" - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070506.html


◇ 2007年05月20日 特別公開 岡本太郎明日の神話≫ - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070520.html


◇ 2007年09月17日 森村泰昌 美の教室、静聴せよ - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2007/art_review070917.html


◇ 2008年01月28日 工芸の力─21世紀の展望 - art review - web complex(「現場」研究会)
http://genbaken.com/art_review/2008/art_review080128.html

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◎ MIZUNO RYO'S DRAWING HELL 水野亮のドローイング地獄
http://www.drawinghell.com/


>>>「web complex」更新  …………  「現場」研究会討議記録 番外編

水野亮展「物置」 関連企画アーティスト・トーク
「作品を語ることについて語る」

http://genbaken.com/genbaken/minutes0705bangaihen.html
http://genbaken.com/
2007年5月26日(土)に開催。