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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

クローズアップ現代「貧困狙う“闇の病院”」で言い足りなかったこと - 学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)

NHKでは内部告発を元に、事件が明らかになるかなり前から、山本病院にいた医師や看護師、患者など関係者への取材を行なっていたということで、(1)生活保護を受給する患者に行なわれる不必要で膨大な検査・手術のカルテを提示したり、(2)診療報酬を荒稼ぎするために(診療報酬の長期入院による逓減を避けるため)、患者を短期間で繰り返し転院させていることを裏付ける証言や証拠を見せるなど、「病院の貧困ビジネス」の実態をかなり生々しく、確実に捉えていた。また、(3)(通常は圧力がかかることを恐れてテレビでは扱わない)そうした転院でつながれた病院のネットワークの存在にも踏み込んでおり、完成度の高い、勇気ある番組であった。


しかしながら、今回は奈良放送局の記者さんも同時に解説に入っていたため、私の登場は番組後半残り4分という場面であり、残念ながら、十分に事件の背景や対策について話すことが出来なかった。本当は、国谷さんともう少し話す内容を打ち合わせていたのであるが、肝心の結論を話す前に番組が終わってしまい、誠に残念であった。ブログとは違って短い時間で勝負しなければならず、テレビは厳しい世界である。そこで、ここでは、番組で言い足りなかった内容を少し付け足しておきたいと思う。


まず、番組を見た視聴者は、「世の中にこんなに悪質な病院があるのか?」「ここは本当に日本か?」と山本病院の実態にさぞ驚かれたことだと思う。しかしながら、実際にはこれは氷山のほんの一角に過ぎない。山本病院が奈良県にあることからも明らかなように、実は山本病院は、こうした病院ネットワークの「下流」、いわば場末の病院である。はるかに実入りの良い貧困ビジネスは、実は、「上流」の大阪にある15ほどの病院(さらにその中心は7つの大病院)が行なっている。


こうした病院の多くは、俗に「行路病院(行旅病院)」として知られており、ホームレスの人々や日雇労働者が、心筋梗塞脳梗塞などで路上で倒れた場合に、救急搬送先となる。救急搬送された場合には、一刻を争う状況であるから、生活保護の手続きをしている暇など無く、「急迫保護」といって直ぐに生活保護にかけ、生活保護から医療費(医療扶助という)を出せるようにする。これを、医療扶助の単独給付、略して医療扶助単給と呼ぶ。病状がある程度安定すれば、改めて手続きを行なって正式に生活保護受給者となる。


この番組で、「生活保護受給者の患者」と呼んでいたのは、実は、元々はホームレスの人々や、高齢で仕事ができなくなった日雇い労働者である。ほとんどの場合は、救急搬送という形で、行路病院に入ることになり、転院ネットワークの中で一生を終える。番組で紹介された人のように、まだ元気なうちに公園のテントから直接病院に連れてこられたケースは、やや希であると思う。

http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/30172816.html


クローズアップ現代 放送記録

11月2日(月)放送
貧困狙う“闇の病院”

奈良県大和郡山市の山本病院で、6月に明らかになった診療報酬詐欺事件。実際には行っていない手術で診療報酬を請求したとして、理事長の医師ら3人が詐欺の罪で起訴された。さらに、奈良県警は、必要のない手術を行って患者を死亡させた傷害致死の疑いで捜査を進めている。NHKでは、事件が明らかになる前から、山本病院にいた医師や看護師、患者など関係者への取材を継続。そこから浮かび上がったのは、医療と福祉の狭間にある生活保護患者を利用した、「病院の貧困ビジネス」とも言える不正な診療の数々だった。さらに、事件の背景には、生活保護の患者を繰り返し転院させて、診療報酬を確保する複数の病院のネットワークがあることも見えてきた。"闇の病院"でいったい何が行われていたのか? 番組では、奈良県の調査・再発防止委員会の調査結果や、関係者への取材によって事件の深層と背景に迫る。
(NO.2810)

スタジオゲスト : 鈴木 亘さん
    (学習院大学教授)
スタジオ出演 : 稲垣 雄也
    (NHK奈良局・記者)

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku2009/0911-1.html