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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

驚異的な情報量が圧縮された、セリフ皆無の海外コミック『3秒』 - 本が好き! Book ニュース

変なマンガはたくさん読んできたが、今回は本気で驚愕させられた。マルク=アントワーヌ・マチューという人物の作品『3秒』だ。「セリフのまったくない海外マンガ」という単純な認識しかなかったのだが、とてもそれだけの作品ではない。ありふれたマンガではない。これはマンガの体裁による「芸術」だと言い切って良い。推薦者として現代芸術家の束芋氏の名前が帯に大きく印刷されているのは何も唐突ではないのだ。

なお、この「視線の旅」はすべて光の反射によって導かれている。ある人物の眼球の瞳に映ったスマートフォン。そのスマートフォンのカメラのレンズに反射している、その人物のいる部屋の鏡。その鏡に映ったトロフィーの鏡面に映った……と気が遠くなるような入れ子構造が描かれている。この視界の入れ子構造を辿るうちに、読者は宇宙にまで視線を送り、そしてそのあいだに事件のヒントや作者の遊びを作品の中から無数に見つけ出すことになる。

僕を驚かせた、訳者の原氏の解説はひとつの解答例なのだろう。ニキ・ド・サンファルやジェフ・クーンズら現代美術家の名前を作中に見つけ出し、彼らが鏡を使った作品を発表していたことに注意を喚起する。また、『スペクタクルの社会』で知られる社会批評家・運動家のギィ・ドゥボールの映画作品や、果ては『文藝別冊』のゴダール特集(ゴダール 新たなる全貌)に掲載されたアガンベンの論文における高桑和巳氏が翻訳した一文に言及するなど、原氏もかなり楽しんでいる。

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