兵庫県西脇市は、かつて織物の町として栄え、栄枯盛衰の言葉通り衰退した。
西脇市は、横尾忠則の故郷としても知られる。横尾は数多くのＹ字路を描いた。東京の街角も多い。しかしその原点は、この西脇の町である。川が町の中心部を曲折しながら流れその流域の山間部に開けた小さな町は、当然のように複雑な地形から、道もまた複雑に迷路のように入り組んでいるのだ。平野や盆地に計画的に作られた京都のような古都とは、大いに趣をことにし、自然の複雑な地形に沿って人々がへばりつくように生活の拠点を築いてきたのだ。
それゆえに、分岐したかと思った路地が少し先でまた合流したり、また、離れたりと面白く錯綜する。この町の面白さを味わいたいならむしろ、道を知らない方がよい。迷うのに楽しい構造になっている町なのだから。一度見た風景をもい一度見ようとしても2度と見られないかもしれない。路地の奥に路地が入り組んでいて、その奥に質屋があったり、銭湯の煙突がいきなり現れたり、あるいはノコギリ屋根の小さな繊維工場の廃屋が突如眼前に立ち現れたりするのだ。さらには、横尾が描いた、多くの鋭角的なＹ字路がところどころ...に出現する。通り過ぎたら気付かないかもわからないから、ときおり振り返りながら、歩かねばならない。
