モーパッサンはしばしば塔のレストランで昼食をとった。とはいえ彼は塔を好きではなかった。「パリで塔が見えないのはこの場所だけだ」と彼は言ったものだった。
(ロラン・バルト『エッフェル塔』)
という有名な書き出しからバルトは、見られる対象であると同時に見る主体でもあり、それ自体は「空」な存在でしかないもの、という独自のエッフェル塔論を書いた(のだったと思う)。
『エッフェル塔』の内容はともかくとして、このモーパッサンと塔に纏わる逸話は以来有名である。この発想の逆転は確かに印象深いから、好んで語られるのも頷ける。