Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

クロツシング・スピッツ カナダ現代美術展1980-94 - 京都国立近代美術館

 1867年の建国以来、カナダは世界各地から移民や文化亡命者たちを受け入れ続けてきたが、現在もアジア、アメリカ、ヨーロッパから多くの人々がカナダに流入し、この国を基点として世界中に移動している。統合的なイデオロギーや宗教の助けを借りることなく、カナダは多様な文化背景を持つ人々が調和的で民主的な関係を保てる柔軟な社会を築いてきた。この穏やかな統一を維持するために、カナダ政府はその政策として1950年代からさまざまな分野での芸術家の活動を積極的に支援している。こうした支援によって、カナダの音楽や映画は1970年代初頭から多くの優れた人材を輩出している。また現代美術の分野でも、1980年以降のカナダの現代美術は注目すべき美術家たちを送り出してきた。冷戦構造という大きな枠組みが崩壊し、急進的な民族主義国家主義、宗教的教条主義が危機的な形で再登場した1989年以降、人種間の文化的差異や国家の枠組み、階層や性の差異を超えた次元でのコミュニケーションの確立は、私たちの緊急の課題となっている。早くからこうした問題に自覚的であったカナダ人作家たちの作品は現代世界が直面する危機を直視し、その問題に関与する美術家の実践として、ヨーロッパやアメリカの美術動向の中で重要な地位を占めるようになっている。彼らの関心は国家や民族の枠組みや文化的独自性、性差や少数者の権利を強調することではなく、現代に生さる一人の個人がどのように世界と関わり、その状況を直視し、外部世界や他者との関係を構築するかという点に向けられている。彼らは脆弱な一人の個人として、矛盾に満ちた私たちの世界に立ち向かい、戸惑い、発言し、そしてさまざまな文脈の間を移動していく。彼ら美術家たちはカナダ政府発行のパスポートを持つ異文化間の旅行者たち、一種の文化流民と言える。国家や民族の枠組みを超えて活動するカナダ人美術家たちの作品を紹介する本展は、アンデンティティーの確立と国際化、その止揚を模索する日本の現代美術の活動に多大な刺激を与えることになるとともに、それ以上に、真の意味での国際化が求められている日本人すべてに、自己と外部世界との関係を省察する上できわめて豊かな示唆をもたらすだろう、との確信に基づいて企画された。(河本信治)


会期
4月11日(木)〜5月14日(火)


人場者数
15,186人(1日平均506人)


共催
財団法人堂本印象記念近代美術振興財団

http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/1995/258.html