Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

「サウンディングス」展 | 現代美術用語辞典ver.2.0

「サウンディングス」展
“Soundings”
ニューヨークのニューバーガー美術館で、1981年9月20日から12月23日に行なわれた、広く音に関連のある芸術作品を展示・紹介した展覧会。この展覧会が重要なのは、音を使った芸術をテーマとした展覧会として最初期のものであり、80年代以降に多く開かれた同主題の展覧会の嚆矢となったからである。会場は次のような5つのブロックに別れていた(1)音がしたり音を暗示する絵画、オブジェ、書籍:カンディンスキーの絵画、 デュシャン《秘められた音》(1916)、ジャン・ティンゲリー《東京ギャル》(1967)など。(2)彫刻としての楽器、楽器としての彫刻:バッシェ兄弟やH・ベルトイアの音響彫刻、ハリー・パーチの創作楽器。(3)サウンドインスタレーションサウンド・プロジェクトの記録:ジョン・ケージ《33 1/3》(1969)の記録、ロバート・モリス《Hearing》(1972)、マックス・ニューハウスの活動記録など。(4)レコードとテープ:視覚芸術家が参加した録音作品。(5)機械的な楽器:第二次世界大戦以前の蓄音機。(6)パフォーマンス:この展覧会に合わせて多くのコンサートが開催された(E・ブラウン、A・ルシエ、D・チュードア、あるいは地域のコミュニティ・オーケストラやカナダのグラス・オーケストラなど)。このように、音に関連のある芸術として、視覚芸術がたくさん参照されていたことが分かる。美術館で開催された展覧会だったからかもしれないし、80年代初頭にはまだ、音楽芸術の側から視覚芸術に接近していった事例はあまり知られていなかったからかもしれない。
著者: 中川克志

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◇ バイオフィードバック・ミュージック | 現代美術用語辞典ver.2.0

バイオフィードバック・ミュージック
Biofeedback Music
生体のフィードバック構造を利用する音楽。脳波や眼球運動など生体の生理現象を電気信号に変換し、その電気信号を音響化する、その音響が脳の中枢神経に知覚刺激として送り込まれて生体の生理現象が変化することで、フィードバック構造が形成される。結果的に生成される音響・音楽は、この構造を音響化したものとなる。この種のバイオフィードバック・ミュージックの最初期の作品に、A・ルシエ《独奏者のための音楽(Music for a Solo Performer)》(1965)がある。この作品では、演奏者の脳波からアルファ波を検知して電気信号を発生させる電子回路が用いられる。電気信号は音響を発生させ、演奏者の中枢神経に知覚刺激を与え、その結果、演奏者の発する脳波に影響を与える、というフィードバック構造が形成される。演奏者は脳波を制御して音響をコントロールすると同時に、脳波は音響に影響を受けるわけである。現代音楽史の文脈では、バイオフィードバック・ミュージックは「ライヴ・エレクトロニクス」の派生種として位置づけられる。「ライヴ・エレクトロニクス」は、スタジオを使わずに作曲と演奏を同一次元で達成する新しい「電子音楽」として登場した。バイオフィードバック・ミュージックはその派生種として、とくに日本では一柳慧が70年代に、輸入しようとしたものだった。生体のフィードバック構造を利用するこの音楽を、人間の内面を疑似科学的に探求した60年代後半という時代の徒花として考えることも可能である。この時代は、ティモシー・リアリー教授がLSDで人格変容の実験を行ない、さまざまなアーティストが東洋哲学を介して人間の本性について思考し、J・G・バラードらSFのニュー・ウェイヴたちが外宇宙(マクロコスモス)ではなく小宇宙(内なる自然としてのミクロコスモス)に関心を向けた時代だった。
著者: 中川克志

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◇ 『サウンド・バイ・アーティスツ』 | 現代美術用語辞典ver.2.0

サウンド・バイ・アーティスツ』
Sound by Artists
1980年代のサウンド・アートの流行を受け、「音の芸術に関する情報や重要な分析の欠落」(D・ランダー)を埋めるために編まれたアンソロジー本。90年に刊行された。全35本の文章が収録されており、そのほとんどは作家のテクストである。例えば、「楽音」の拡大者としてルッソロやケージ、R・M・シェーファー、ケージ的な実験音楽以降の音楽家であるA・ルシエ、M・ニューハウス、あるいは70年代以降の(音楽家ではない)音を扱う芸術家であるB・ヴィオラ、C・クービッシュ、G・モナハン、R・サマーズ、C・マークレー、H・ウェスターカンプなどのテクストが収録されている。また、理論的なテクストとして、R・コステラネッツやD・カーンのテクストのみならず、サウンド・アートの展覧会カタログに収録されていた重要テクスト(S・デラハンティの「サウンディングス」など)も収録されている。編者のランダー(『サウンドアート』の著者であるA・リクトによれば、80年代半ばに「サウンド・アート」という言葉を使い始めたとされる)は、序文で、ケージ的な実験音楽サウンド・アートを区別することの重要性を強調している。ランダーは、音楽は音を用いる芸術だが、音を用いる芸術のすべてが音楽であるとは限らないことを強調することで、ケージ的な実験音楽と音楽ではない音を用いる芸術とを区別する。そうすることでランダーは、90年代以降、実験音楽の単なる亜種ではないものとしてサウンド・アートについて語る可能性(その代表はカーンの著作である)を確保したと言えよう。サウンド・アートという領域について考察する際に本書で言及される作品を基準例として設定できるようになったという意味で、このアンソロジーは、サウンド・アート研究の準拠枠を設定した古典と言えるだろう。
著者: 中川克志

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