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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

メモ

◇ ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)の Todさんのレビュー - Amazon.co.jp

レビュー対象商品: ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫) (文庫)


 今をときめく評論家・エッセイスト内田樹の、記念すべきデビュー作である。
「なぜ私は戦争について語らないか」「なぜ私は性について語らないか」「なぜ私は審問の語法で語らないか」「それではいかに物語るのか」の四つの章に分かれている。通底しているのは(『ためらいの倫理学』というタイトルに示されているように)、語りの態度としての「ためらい」の必要性である、と言っていいであろう。
 内田は言う。私は自信満々の語りを信じない。ためらいのない語りを信じない。なぜなら「自分は間違っているかも知れない」というためらいこそが、真正な語りの必要条件であるからだ(十分条件ではないが)。「自分は正しい」という信念に基づく、異論反論をシャットアウトするような自信満々の語りは、その時点で他者に耳を傾ける謙虚さを失っており、真正ではありえない。内田はそう言ってスーザン・ソンタグ宮台真司といった「自信満々の」論客を一刀両断する。
 内田の言っていることは正しいと思う。しかし気になるのは、「真正な語りにはためらいが必要である」と語っている内田の口調に、ためらいが感じられないことである。「自信満々の語りを私は信じない」と、自信満々に語っていることである。
 もっともそんな不満を吹き飛ばしてしまうほど、内容は充実しており面白い。その後の内田の活躍も大いにうなずける、デビュー作とは思えないレベルの高さである。今後も目が離せない論客の一人であることは間違いない――とためらいつつも言っておこう。

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