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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

ヒト・スタヤル インタビュー - ART iT アートイット:日英バイリンガルの現代アート情報ポータルサイト

ART iT これまでに映画制作や哲学、批評という領域で活動し、昨今では、現代美術の文脈で作品や思考が注目される機会が増えていますね。参加する場として、美術をどのように捉えていますか。また、実践面ではどのようにアプローチしているのでしょうか。


ヒト・スタヤル(以下、HS) 映像作家として経験を積んできたので、私自身、この領域に対しても自分のやり方でアプローチしていきたいと考えています。ほかの専門領域でも同じかもしれませんが、映像もまた、メディアの再編成やその他諸々の理由から、さまざまな機会や選択肢が失われつつあり、しばらくすると、各々の専門領域での活動に不自由さを感じていた専門家の多くが、どういうわけか美術の領域に集まってきたのです。おそらく、美術は実験的な試みや想像力に働きかけるクリエイティブな労働のために、わずかに残された領域のひとつだったのかもしれません。自分と同じ映像作家のほか、ダンサーや建築家、文筆家や哲学者、詩人など、結果的に現代美術へと集まることになった、あらゆる専門領域の人々に出会うことになりました。
もちろん、これだけが今日の現代美術のたったひとつの特徴だということはありません。例えば、アートマーケットや、現代美術と並走したり、現代美術によって加速される経済全体といったものもそうでしょう。とはいえ、最も興味深い特徴のひとつと言えば、異なる領域に属する人々を、さまざまな広範囲にわたる地域から呼び寄せるところではないでしょうか。


ART iT しかし、あなたの各文章からは、美術に対する両義的、もしくは批評的な態度も伝わってきます。


HS 私たちは美術の領域でグローバリゼーションが抱える矛盾について考えることができます。美術はなにかを可能にしたり、自由にする優れた能力を持ち、それまで繋がりのなかった人々や出来事、物事を引き合わせる。その一方で、いわゆる市場の統合や価値の創出、貨幣と無給労働と大規模な搾取を背景に広く行き交う作品によって、グローバル資本主義の前提としても作用しています。それはグローバルなアート市場を一元化し、そのような市場を生み出し、さらには、フリーランスインターンといった身分を広く普及させることで、そのような美術の仕事における社会的地位をグローバル化しています。現在、アートワールドは極めて多極化していて、もはや30年前のように、ニューヨークとかどこかひとつの都市に中心があるわけではなく、中心が複数あることで、より面白くなっていると同時により複雑になっています。これは先の仕事における社会的地位についても同じことです。状況を進展させたり、なにかを建設するようなプロジェクトをはじめ、明示的にも暗示的にも、現代美術が無給労働、非正規労働、期限付き労働に依存しているということは明らかです。

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