『アウグスティヌス<私>のはじまり』
シリーズ・哲学のエッセンス、日本放送出版協会、2003年コリント前書の「わたしたちは、いまは、鏡におぼろに映ったものを見ている」という一節を手がかりに、アウグスティヌスの『告白』を「私のはじまり」への探究として読み解く。アウグスティヌスは『告白』のなかで神にこう語りかける。「あなたは私にとって、何者にましますか。どうぞ私をあわれみ、語らしめたまえ。この私なる者は、あなたにとって何者であるかを。」私が私であることが、あなたにとって私が何であるかということと切り離せないならば、そして、あなたがあなたであるということもまた、私にとってあなたが何であるかということと切り離せないとするならば、私とあなたはまるで合わせ鏡のように互いに互いを映し合い、その二つの顔の微かな、しかしけっして乗り越えることのできない隔たりのなかに、閉ざしようのない「私とは何か」という問いの場が開かれてくる。
E.パノフスキー『イデア』
平凡社ライブラリー、2004年(共訳)イデア(idea)とは、一方では「思いつき」や「着想」(アイデア)のことを指す言葉でもあれば、他方では、この語の本来の語義が示すように、見てとられた「形」そのものを指す言葉でもあり、しかし同時にまた、感覚経験を可能にする根拠としての「観念」や「理念」とともに、新たに創造され実現されるべき「理想」という意味をもつ。それゆえイデアとは何かという問いは、現にある世界と、それを捉える私たちの精神、そして、その精神の表現としての造形をめぐる問いであると言ってよい。本書は、イコノロジーの提唱者として名高いパノフスキー(1892-1968)が、プラトンから新古典主義に至るまでの美と芸術の理論におけるイデア概念の変遷を論じた古典的名著の翻訳である。