Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

モルタル造りの山門をくぐり、本堂の脇から庫裏に抜ける路の左、

本堂の裏手に当たる場所に、小石が一面に並べられていた。帰
宅してから調べると、この石群は、江戸中期にこの寺を開基し
た禅僧が殺した弟子たちの墓と言い伝えられていた。
 この僧侶は、自らの肖像画に、蒙僧を鏖殺〔おうさつ〕する
(本当に「鏖」という文字を使っている)という偈〔げ〕を記
している。彼が蒙僧と呼ぶのは、戒律を破ったり、信心に欠け
ている僧ではない。彼が悟りと呼ぶ境地に至る事の出来ない僧
の事である。しかし悟る事の出来る者など、此の世に居るのだ
ろうか。
 見込みがない修行僧を、彼は容赦無く殺したと云う。自ら弟
子を踏み殺し、殴り殺し、回向もせずに埋めた屍の上に石を置
き見せしめにしたのが、その石群である。
福田和也『甘美な人生』(ちくま文芸文庫刊より)


ホンマタカシが、
「作家しか生き残れない」「生き残るべきではない」
というようなことを語っていたことが
フラッシュバックする暮れの夜。


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