Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

「現場」研究会特別編 シンポジウムのお知らせ

80年代におけるアヴァンギャルド系現代美術
――画廊パレルゴンの活動を焦点として――


「現場」研究会では、今年の7月に80年代アヴァンギャルド美術を再検証するシンポジウムを開催します。シンポジウム開催のきっかけは、1984年に画廊パレルゴンが発行した活動記録『現代美術の最前線』を「現場」研究会のホームページcomplexに掲載しようという計画でした。


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80年代に先立つおよそ10年のあいだ、神田エリアの画廊街では、銀座の画廊を舞台に展開される優雅なアートシーンに対してアヴァンギャルドな表現活動が果敢に展開されていました。神田は、もの派の登場以降、アヴァンギャルドのメッカとなっていたのです。


しかし、オイルショックを契機とする保守回帰の動きが進行するにつれ、神田エリアの活動は徐々に相対化され、80年代における絵画・彫刻復権キャンペーンは、アヴァンギャルディズムと共に神田エリアを過去化し去ってしまいました。さらに画廊の都内各所への拡散、美術館による現代美術へのコミットメントが、そうした動きを加速してゆきました。


ただし、これによってアヴァンギャルド系現代美術が消え去ったわけではなく、また、後退したわけでもありません。絵画・彫刻の復権をもくろむ勢力がアヴァンギャルドへの抑圧としてはたらいたのは事実だとして、しかし、アヴァンギャルド系現代美術は潰え去りはしなかったのです。潰え去るのではなく、また後退するのでもなく、それは伏流化したのでした。どっこい生きていたわけです。


80年代末のバブル経済は、アヴァンギャルディズムの再出現を促し、90年代になると、美術界は、絵画、彫刻に拠点を据える新保守派勢力と、新興アヴァンギャルド勢力による二重構造を呈することになりますが、80年代の美術は、そこに至る境界ゾーンに、ちょうど位置しており、伏流化するアヴァンギャルド系の動きと絵画、彫刻への復帰の動きとが――あたかも汽水域のように――混じり合う興味深い現象が、ところどころで観測されました。この興味深い現象に場を提供したのが画廊パレルゴンであり、その現象の記録が『現代美術の最前線』なのです。


しかしながら、80年代のアヴァンギャルド系現代美術と90年代のそれとはバブル期を挟む断絶の相において捉えられる傾向が強く、おおかたの歴史叙述はバブル期以前に終始した80年代アヴァンギャルドをネグレクトして、80年代美術を、絵画、彫刻への回帰という線に一本化しようとしがちです。これは80年代の実相を看過しているという点で問題であるばかりか、歴史というものの捉え方に関する誤りでもあります。歴史は、つねに複線的に展開してゆくものであるからです。


これまで80年代美術が、まっとうに顧みられることがなかったのは、単純な歴史観のせいばかりではなく、歴史化するには時代的に近すぎたからであったとも考えられますが、21世紀の最初のディケイドを終えようとしている現在、われわれは、その全体像を想い描くことのできる歴史的時点に、そろそろさしかかりつつあるのではないでしょうか。80年代の文化全般を省みる動きは、90年代早々に始まっていましたが、多くは「オタク」や「バブル」をめぐるものでした。しかしながら、以上に簡単に述べたように、80年代の美術状況は「オタク」や「バブル」の観点から語りきれるものではないのです。


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上述のような見方に立って、「現場」研究会では80年代の美術状況を、画廊パレルゴンの活動に焦点を絞ってHPとシンポジウムを通じて再検証します。HPでは、『現代美術の最前線』の影印版と共にシンポジウムの記録を掲載する予定です。シンポジウムのパネリストとしては、パレルゴン運営の中心にあった藤井雅実、パレルゴンを拠点に活動を展開した大村益三、そしてパレルゴンの近傍で活動を展開していた吉川陽一郎、同時代に批評活動を開始した市原研太郎の四氏に加えて、現在の視点からの“介入者”として暮沢剛巳氏を予定しています。


パネリスト:市原研太郎、大村益三、暮沢剛巳、藤井雅実、吉川陽一郎 (50音順)


開催日程:2008年7月6日(日) 午後1時30分〜4時00分 入場無料


開催場所:京橋区民館 定員40人(先着順)

       東京都中央区京橋2-6-7 2・3号室


主催:「現場」研究会

連絡先:genbaken_event★mail.goo.ne.jp 

(迷惑メール防止のため、送信の際は★を@にしてからお問い合わせください)


【パネリスト プロフィール】

市原 研太郎 (いちはら けんたろう)
1949年生まれ。美術評論家京都造形芸術大学教授。著書に『マイク・ケリー"過剰の反美学と疎外の至高性"』、『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』、『最新世界のアーティストファイル100』(共著)ほか。また、「After the Reality」など展覧会企画も行う。


大村 益三 (おおむら ますみ)
1957年生まれ。美術家。1979年より発表活動。パレルゴンでは1981年と1982年に個展を行う。他、個展グループ展多数。現在「Peeping dinosaur」展開中。2008年より80年代出身作家中心による「ラディカル・クロップス」展を前本彰子と共に企画。


暮沢 剛巳 (くれさわ たけみ)
1966年生まれ。美術評論家跡見学園女子大学女子美術大学多摩美術大学、武蔵野美術大学非常勤講師。著書に『美術館はどこへ』、『「風景」という虚構』、『美術館の政治学』、『現代アートナナメ読み』など。


藤井 雅実 (ふじい まさみ)
美学、芸術哲学研究。1981〜83年、画廊パレルゴン創設・主宰。編著:『現代美術の最前線』。共著:『人はなぜゲームするのか』、『こんなスポーツ中継はいらない』他。監修・翻訳:CD‐ROM『レオナルド』『ドラクロワ』他。共訳:ニード『ヌードの反美学』、カミング『深読みアート美術館』他。


吉川 陽一郎 (よしかわ よういちろう)
1955年生まれ。多摩美術大学彫刻学科非常勤講師。1981年より発表。1982年「現代美術の最前線」ギャラリーパレルゴン(東京)、同時期、神田にてスタジオ4Fを、玉置仁、内倉ひとみ氏と共同企画運営企。1995年「視ることのアレゴリー」セゾン美術館(東京)、2007年「Primary Field」神奈川県立近代美術館(葉山)など。


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