■KV外挿
◇『スローターハウス5』の一場面を思い出す映像
・YouTube - Speeding Hurts - RSF - Crash Boy
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◇ カート・ヴォネガット(ジュニア)『スローターハウス5』(訳:伊藤典夫 ハヤカワ文庫)より
負傷者と死者をいっぱい乗せた穴だらけの爆撃機が、イギリスの飛行場からうしろむきにつぎつぎと飛びたってゆく。フランス上空に来ると、ドイツの戦闘機が数機うしろむきにおそいかかり、爆撃機と搭乗員から、銃弾や金属の破片を吸いとる。同じことが地上に横たわる破壊された爆撃機にも行なわれ、救われた米軍機は編隊に加わるためうしろむきに着陸する。
編隊はうしろむきのまま、炎につつまれたドイツの都市上空にやってくる。弾倉のドアがあき、世にもふしぎな磁力が地上に放射される。火炎はみるみる小さくなり、何個所かにまとめられて、円筒形のスチール容器に密封される。容器は空にのぼり、爆撃機の腹に呑みこまれて、きちんと止め金におさまる。地上のドイツ軍もまた、世にもふしぎな装置を保有している。それは、たくさんの長いスチールのチューブである。ドイツ軍はそれを用いて、爆撃機や搭乗員から破片を吸いとってゆく。しかしアメリカ軍のほうには、まだ数人の負傷者が残っており、爆撃機のなかにも修理を必要とするものが何機か見える。ところがフランスまで来ると、ドイツの戦闘機がふたたび現われ、人も機体も新品同様に修復してしまう。
編隊が基地へ帰ると、スチールの円筒は止め金からはずされ、アメリカ合衆国へ船で運ばれる。そこでは工場が昼夜を分かたず操業しており、円筒を解体し、危険な中身を各種の鉱物に分離してしまう。感動的なのは、その作業にたずさわる人びとの大半が女性であることだ。鉱物はそれぞれ遠隔地にいる専門家のところへ輸送される。彼らの仕事は、それらが二度とふたたび人びとを傷つけないように、だれにも見つからない地中深く産めてしまうことである。
アメリカ人の飛行士たちは制服をぬぎ、ハイスクールの生徒となる。そして、とビリー・ピルグリムは思った。ヒトラーもまた赤んぼうになってしまうのだ。そんな場面は映画にはない。ビリーは外挿しているのである。だれもかれもが赤んぼうになり、全人類がひとりの例外もなく、生物学的に協力しあいながら、やがて二人の完全な人間アダムとイブをつくりだすのだ、とビリーは思った。
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『スローターハウス5』(- ファイブ、Slaughterhouse-Five, or The Children's Crusade: A Duty-Dance With Death)は、1969年に出版されたカート・ヴォネガットの小説。時間旅行を筋立ての道具とするとともに、ヴォネガットがその余波を目撃した第二次世界大戦でのドレスデン爆撃を出発点として、SF小説の要素と人間の条件の分析とを希有な観点から結びつけた作品である。
この本が出版された時には、ドレスデン爆撃はまだ広く知られておらず、退役兵や歴史学者によって語られることもほとんどなかった。この本は、爆撃の認知度を高め、大戦中の連合国によって正当化された都市空爆の再評価へとつながった。
◇「終末は近づいている」byカート・ヴォネガット - 暗いニュースリンク
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/11/post.html
◇ Kurt Vonnegut(1922 - ) - PAPERBACK GUIDE
一度の死者数では、広島原爆の犠牲者数をも凌駕する悲惨をまのあたりにし、そうした愚行を許す人間の本性に絶望したヴォネガットは、絶対的なもの(たとえば神)にすがることでなく、また声高に非難することでも憎悪することでもなく、かなしみとペシミズムを軽妙な文体に潜ませた作品群(とりわけ初期の作品)を発表しますが、処女長編から17年を経て、ようやくにして書かれたヴォネガット自身のドレスデンでの体験を核とした本作品が、彼にとって最も重要な作品であることは間違いないと思います。そもそもこのドレスデン体験がヴォネガットの作家としての原点であったこと、この体験を経なかったなら彼は作家とはならず、したがって彼の全作品は書かれなかったのではないか、そうした思いさえ抱かされます。
http://www1.odn.ne.jp/~cci32280/pbVonnegut.htm
◇ さよなら、ヴォネガット - イルコモンズのふた。
http://illcomm.exblog.jp/5146445/
◇「その他いろいろ」はつづく - イルコモンズのふた。
http://illcomm.exblog.jp/5155687/
さすが小田マサノリさん。
YouTubeへのリンクほか、かなり充実してます。