Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

エドワード・サイード「ジョー・サッコを讃える」より

 私たちはメディアで飽和状態の世界に生きている。圧倒的でぼう大な世界ニュースの映像は、ロンドンやニューヨークといった場所にすわっているひとにぎりの人たちによってコントロールされ、広められる。それに対して、コミックブックの絵とことばによる奔流は、そのなかで語られる過激な状況にふさわしく断定的に描かれ、時にはグロテスクなほど強調されているが、すばらしい解毒剤となっている。ジョー・サッコの世界には、なめらかな口調のアナウンサーやプレゼンターは出てこない。イスラエルの勝利や民主主義やその達成についての、調子のいいなめらかな語りもない。そして推測ではなく再確認されたとするパレスチナ人像──つまり、石を投げたりなんでも拒絶したり原理主義者の悪人(その主な目的は平和を愛し迫害されているイスラエル人の生活をおびやかすことにある)──は提示されていない。その像のすべては、どんな歴史的もしくは社会的な典拠からも、生きた現実からも、かかわりがないのだが。それに替わってあるのは、親しめない無愛想な世界をさまよい歩くかに見える穏やかな姿をした、どこにでもいる角刈りの若いアメリカ人の目を通して見た現実である。そこは軍隊の占領下にあり、勝手に逮捕されたり、家が壊されたり、土地がとりあげられる悲惨な経験や、拷問(「肉体へのおだやかな圧力」)の世界であり、本当の暴力が気前よくまたは残酷に行使される(例えば、あるイスラエル兵は西岸の道路を閉鎖して人々を通行させない。理由は「これだぞ」と、恐ろしげな歯を見せておどしながら、M16自動小銃をかかげる)。そのお情けのもとに、パレスチナの人たちは、まさしく日々の一刻一刻をすごしている。

 〔略〕 特に急がず目的もなくさまようその姿は、彼が得ダネを求めるジャーナリストでも、政策決定のために事実をつきつめようとする専門家でもないことを強調している。ジョーはそこに、パレスチナにいる。それだけのことなのだ。要するに、パレスチナ人がそこで強制されているのと同様に生活することはないにしても、出来るだけ時間をさいて事実上そこですごしている。権力の現実を見せられ、負け犬たちに自己同一化しながら、サッコによってイスラエル人たちは、常に不信感を抱いてというわけではないにせよ、まちがいなく懐疑的に描かれている。彼らのほとんどは不正な権力と不明瞭な権威の姿をしている。明らかにつまらない人たち、多くの兵隊たち、パレスチナ人の生活を困難に、ことさら耐え難くするよう出現し続ける多くの入植者たちのことだけを、私はいっているのではない。とりわけ「平和主義者」たちのことも含んでいるのだ。彼らのパレスチナ人の権利擁護はあまりにもあいまいで、および腰で、結局何の効果もなく、失望させられ、軽べつの対象となっているのである。

ジョー・サッコパレスチナ』(いそっぷ社)序文(※抜粋部分は全体の1/10程度)
http://www.amazon.co.jp/dp/4900963372
http://www.bk1.jp/product/02778201
https://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/%83W%83%87%81%5B%81E%83T%83b%83R/list.html


>>>ジョー・サッコパレスチナ』(いそっぷ社

Joe Sacco "Palestine: In The Gaza Strip"

ジャーナリズムとコミックの融合芸術であり、記念的作品である『Palestine』全1巻(288頁)がFantagraphics Books社から刊行された。批評家に絶賛された『Safe Area Gorazde』の出版を機に、サッコに対する注目は最高潮に達している。
1990年代初頭に行った数か月にわたる調査と、ヨルダン川西岸とガザ地区への長期にわたる訪問で、サッコはパレスチナ人とユダヤ人100人以上をインタビューした。その記録に基づいた本書は、初のコミック・ジャーナリストとよばれるサッコの政治・歴史的ノンフィクション漫画の初期の主要作品だ。


サッコの洞察力にみちたルポルタージュは最前線の活動から生み出された。にぎやかな市場が銃撃戦と催涙ガスで破壊され、感情のおもむくままに兵士が市民に暴行を加え、ジャーナリストが逃げる間もなく道路封鎖が行われる。サッコは囚人、難民、反政府主義者、傷ついた子供たち、土地を失った農民、パレスチナ紛争でばらばらになった家族を取材した。


1996年に『Palestine』に第17回アメリカン・ブック・アワードを与えたビフォア・コロンバス財団は「アメリカ文学に対する優れた貢献」を称え、出版元であるファンタグラフイックス社は「品質に対するこだわりと、短期的には採算がとれるかどうかわからないすばらしい著作とその著者の作品を出版するリスクを、あえておかす姿勢」を賞賛した。


この新版では、著名な作家・批評家であり、『Peace and Its Discontents』を著し、中東紛争の世界的権威として知られる歴史家エドワード・サイードによる序文を掲載している。

http://www.amazon.co.jp/dp/156097432X
いま読んでるところです。


ジョー・サッコパレスチナ』 - 紙屋研究所
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/Palestine.html


ジョー・サッコパレスチナ』- 夏目房之介の「ほぼ与太話」
http://executive.itmedia.co.jp/c_natsume/archive/22/0


◇ Joe Sacco (Fantagraphics Books)
http://www.fantagraphics.com/artist/sacco/sacco.html

http://d.hatena.ne.jp/n-291/20070923#p4


>>>『エドワード・サイード OUT OF PLACE』

エドワード・W・サイード
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%89%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%89
http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/edward_said.html
http://www.k2.dion.ne.jp/~rur55/J/saidonline.htm
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0902.html
http://www.onweb.to/palestine/siryo/parry-said.html
http://www.polylogos.org/chronique/204.html
http://www.logico-philosophicus.net/profile/SaidEdwardW.htm
http://www.jca.apc.org/~teramako/autopoiesis/said.html

http://d.hatena.ne.jp/n-291/20060331#p2


>>>「グリーングラスパレスチナ料理/西川口 - 葉っぱのBlog
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20090822#p3