ジャンル : 哲学
体裁 : 四六判 上製 378頁
刊行年月 : 2012-06
内容 : 非人間的な近代産業に反逆し、逃避したはずの十九世紀芸術家たちが、テクノロジーに毒されていたことを喝破。「方法の制覇」「視覚の支配」などを批判した文化史の傑作。待望の復刊! 高山宏解説
ワイリー・サイファーの『文学とテクノロジー』は、様々面白そうなディテールを二百年だ、三百年だというスケールに並べ直して、文化をめぐる巨大俯瞰を手に入れていくことの快感を与えてくれたぼくの永遠の書のひとつである。…高山宏(『超人 高山宏のつくりかた』より)
作家たちの人工楽園
実験室は十九世紀が生んだもう一つの人工楽園だった。芸術に「科学の正確さ」を求めた自然主義者はもちろん、純粋な美を目指した象徴主義者やデカダン派もまた、「美のテクノロジー」に憑かれていた。ラファエル前派は拡大鏡で絵を描き、マラルメは計算によって詩から一切の偶然を排除せんとし、フローベールは考古学的考証に耽り、ゾラは、芸術家は現象をうつす写真家でなければならないと説いた。産業社会に反逆、逃避したはずの作家たちが、忌避したテクノロジー思考に実は支配されていたことを暴き、近代における「方法の制覇」「視覚の専制」、そこから生じる距離と疎外の問題を論じて、文化史の革命的書き換えを成し遂げた名著。待望の復刊!
[目次]
序論
I 方法の征覇
技術主義的麻痺
二つの文化
限定された自発性
純粋の論理
II ロマン主義者と唯美主義者
ロマン主義的経験主義
ブリコラージュとしての技芸(クラフト)
苛酷なる方法
芸術の禁欲
III ミメシス計計――視覚的なるもの
自然の鏡
ミメシスとメセクシス
平面の破壊――アイロニー
視覚的世界と視覚的場
色彩と幾何学
IV 疎外された世界
距離の悲哀
物神(フェティシ)としての思想
マルクスとキーツ
消費の悲哀
節倹の倫理
浪費の倫理
V 参加
様式と快楽
グロテスクと聖なるもの
フロイトの美学
反逆と技芸
VI 接近
有機的なデザイン
技芸の不可知論
原註
参考文献
訳者あとがき
サイファーは〈今〉を解く暗号 高山宏
索引
プロフィール: ワイリー・サイファー Wylie Sypher
アメリカの英文学者・文化史家。1905年、ニューヨーク州マウント・キスコ生まれ。アマースト・カレッジ卒業後、ハーヴァード大学で博士号取得。元シモンズ・カレッジ教授。主に文学と美術に拠ってルネサンス期から20世紀に至る西欧精神史、文化史研究を壮大なスケールで展開した。主な著書に『ルネサンス様式の四段階』(1955)、『ロココからキュビスムへ』(1960)、『現代文学と美術における自我の喪失』(1962)(以上、河出書房新社)、『文学とテクノロジー』(1968)など。編著に18世紀英国の諸分野の文章を集めたアンソロジー『啓蒙された英国』(1947)、『美術史──現代批評選』(1963)などがある。1987年没。
プロフィール: 訳者:野島 秀勝(のじま ひでかつ)
1930年生まれ。東京外国語大学卒業、東京大学大学院英文科博士課程修了、お茶の水女子大学名誉教授。2009年没。著書に『自然と自我の原風景』『孤独の遠近法』(以上、南雲堂)、『迷宮の女たち』(TBSブリタニカ、亀井勝一郎賞受賞)、『実存の西部』(研究社)、訳書にメイラー『黒ミサ』(集英社)、バーンズ『夜の森』(国書刊行会)、シェイクスピア『リア王』『ハムレット』、ド・クインシー『阿片常用者の告白』(以上、岩波書店)などがある。