ホームレス・リプレゼンテーション
Homeless Representation
日本語では「帰する場所なき再現性」とも訳される。完全に抽象的でもなく、特定のモデルを再現=表象しているわけでもない描写のこと。デ・クーニングの絵画やその影響を受けた画家たちの傾向に対して、C・グリーンバーグが述べた用語。グリーンバーグは「1950年代が経過するにつれて、抽象表現主義の絵画の多くが、より一貫した三次元空間のイリュージョンを実に声高に要求し始めた」と書いている(「抽象表現主義以後」)。50年代といえば、デ・クーニングが抽象的な絵画から、「女」シリーズにおける再現性への転回を行なった時期であるが、グリーンバーグによれば「ホームレス・リプレゼンテーション」では、「三次元空間のイリュージョン=深奥空間」が認められ、同時にそれらの絵画は、画面を埋める盛り上げられた絵具の三次元性が「密かな浅浮彫」を連想させるという。この二つの「三次元性」の類比が「ホームレス・リプレゼンテーション」を規定していた。絵画のオブジェ化=三次元化を推進したJ・ジョーンズの作品は「ホームレス・リプレゼンテーション」の最終形態と見なされている。それに対して、B・ニューマン、M・ロスコ、C・スティルなど、均質な薄塗りの二、三種類の色彩を扱い絵画空間の拡張をはかったとされる画家たち――後に「カラー・フィールド・ペインティング」と形容される――をグリーンバーグは「近い将来の高度な絵画芸術にとって唯一の方向性を示している」と評価した。
著者: 沢山遼