Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

再録(http://d.hatena.ne.jp/n-291/20140604#p3)

セバスティアン・ブラントと『阿呆船』 - CiNii 論文

拙論は、フランス国アルザスルネサンス時代において、その当時最も優れた文学作品のひとつである風刺詩集『阿呆船』と、その著者セバスティアン・ブラント(1458-1510)を取り上げる。『阿呆船』は現代フランスの思想史家ミシェル・フーコーがその『狂気の歴史』において、狂気についてのすぐれた文学的例証であると指摘した作品である。ブラントの『阿呆船』は、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』に先駆するヨーロッパ世界で最初のベストセラー作品となり、もっとも読まれる作品となった。ブラントはバーゼル大学法学部に学び、のちに母校の法学部長を長く勤めた後、生まれ故郷のストラスブールに戻って市参事会書記に転進し、ストラスブールの名声を高めるとともにアルザス人文主義(ユマニスム)を発展させている。拙論はブラントの生涯と当時のストラスブールの文化状況(活版印刷術の発明など)についても考察する。

http://ci.nii.ac.jp/naid/110006607310


◇ 阿呆船 - Wikipedia

『阿呆船』(あほうせん) Das Narrenschiff は、15世紀のドイツ作家セバスティアン・ブラントSebastian Brantによって書かれた諷刺文学である。1494年にバーゼルで刊行された。1497年にはラテン語訳も刊行され、その後英語、フランス語、オランダ語など各言語に翻訳されて16世紀ヨーロッパにおけるベストセラーになった。

ありとあらゆる種類・階層の偏執狂、愚者、白痴、うすのろ、道化といった阿呆の群がともに一隻の船に乗り合わせて、阿呆国ナラゴニアめざして出航するという内容である。全112章にわたって112種類の阿呆どもの姿を謝肉祭の行列のごとく配列して、滑稽な木版画の挿絵とともに描写しており、各章にはそれぞれに教訓詩や諷刺詩が付されている。巻頭第一章を飾るのは、万巻の書を集めながらそれを一切読むことなく本を崇めている愛書狂(ビブロマニア)であり、ここでは当時勃興した出版文化の恩恵に与りながら、有効活用もせず書物蒐集のみに勤しむ人々を皮肉っている。その他にも、欲張りや無作法、権力に固執する者などが諷刺されている。本書は同時代ドイツにおける世相やカトリック教会の退廃・腐敗を諷刺したものとされる。
「阿呆船」の題名は、新約聖書のルカ福音書にあらわれる「ペテロの舟」を意識したものらしい。
和訳は、現代思潮新社の叢書「古典文庫」シリーズより上下二巻として刊行されている。翻訳者は尾崎盛景。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E5%91%86%E8%88%B9


◇ 小俣和一郎『近代精神医学の成立』など (阿呆船は実在したか) - 本読みのつまずき

「阿呆船」Narrenschiff は「愚者の船」などとも訳されますが、今でいう精神病患者などを乗せて水上を彷徨う船舶を意味し、こうしたモチーフは15・16世紀ごろの北方ヨーロッパの習俗や文学・絵画などに散見されます。代表的なところでは15世紀末にバーゼルで出版された『阿呆船』と題された風刺文学 (セバスティアン・ブラント作) がヨーロッパ中で大ヒットし、また同時期のフランドルの画家ヒエロニムス・ボスもこれを題材にした作品を残しています。

さて、こうした船が歴史的に実在したのか否かがここでの問題です。フーコーは『狂気の歴史』(1961年) でそれを実在の船であると述べており、今回取り上げる小俣の著作も同様です。しかし、結論からいえば専ら狂人を乗せて都市から都市へと移動するような「阿呆船」が歴史的に実在したと信ずるに足るような論拠はない、というのが衆目の一致するところであるように思います。

小俣の著作に疑問を感じるのは、フーコーの仕事からすでに40年ちかくが経過し、フーコーへの批判も1980年代初頭にすでに唱えられていたにも関わらず、やはりフーコーと同じ過ちを犯しているように思えるために他なりません。

http://d.hatena.ne.jp/distracted/20100309


◇ 本の紹介 『阿呆船』(ゼバスチャン・ブラント、尾崎盛景訳、現代思潮社、新装版 2002年 原版 1968) - 「アタマの引き出し」は生きるチカラだ!
http://e-satoken.blogspot.jp/2010/01/2002.html


◇ Sebastian Brant - Wikipedia, the free encyclopedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Sebastian_Brant


◇ ヒエロニムス・ボス-愚者の船-(画像・壁紙)
http://www.salvastyle.com/menu_renaissance/bosch_ship.html