『都市のイメージ』ケヴィン・リンチ
The Image of the City, Kevin Lynch
1960年にアメリカの都市計画家ケヴィン・リンチが提唱した、都市の「わかりやすさ」に関する概念、または著作名。日本では68年に丹下健三と富田玲子による邦訳版が、さらに2007年にはその新装版が出版されている。都市のイメージとはすなわち、都市のあるがままの形態を住人がどのように感じているかをアンケート調査等の分析(対象はボストン、ジャージー・シティ、ロサンゼルスの3都市)により明らかにしたものであり、それまでの計画者や為政者による価値の高い建物や道路配置などを扱う都市計画理論とは一線を画す。リンチはまず、人々が周辺環境に対して抱くイメージそのものを、アイデンティティ(そのものであること・役割)、ストラクチャー(構造・空間的関係)、ミーニング(意味・象徴)という3つの成分に分けている。さらに上述のミーニングを捨象し、都市の物理的特性に注目することで都市の形態そのものをパス(道・通り)、エッジ(縁・境界)、ディストリクト(地域・特徴ある領域)、ノード(結節点・パスの集合)、ランドマーク(目印・焦点)の5つのエレメントに分類した。これらが単体または相互に組み合わさって都市の視覚的形態が構成されるとしている。また、上述のような5つのエレメントで捉えられる都市の形態が人々に何かしらのイメージを想起させることを「イメージ・アビリティ」という。例えばある道を見分けるとき、近くの塔(ランドマーク)を思い浮かべることもあれば、特徴的な舗装をもつ通学路(パスとディスリクト)として認識することもある、という具合である。リンチはこれらを用いてイメージ・マップで都市の「わかりやすさ=レジビリティ」を表現しようと試みている。この著作は単に都市計画分野への貢献にとどまらない。リンチは都市の物理的環境を扱う現実に即した実践家でありながら、『都市のイメージ』では行動論的なアプローチを取っており、その結果、本書は異なる専門分野の人々にも広く読まれることとなった。
著者: 金指大地