Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

柄谷行人「テクノロジー」(1985)

 テクノロジーについて考えると、われわれの思考の盲点があらわになる。たとえば、われわれが「自然的」とよぶのは、きまってひと昔前のテクノロジーである。その意味で、われわれが「人間的」とよぶのも、ひと昔前のテクノロジーにすぎない。とりわけ、今日のハイ・テックは、音楽・美術・文学などの領域で、その根本的な見直しを強いている。その分析性は、「自然的」や「人間的」なものの根拠を奪ってしまう。いいかえれば、文学・芸術がなにか自立した特権的な領域であるかのような幻想を滅ぼしてしまう。ここで悲鳴をあげ、従来の「自然」や「人間」にしがみつくのは、反動的である。むろん私はテクノロジーの発展に楽天的な期待を抱いているのではない。ただ、テクノロジーへの紋切型の批判において、生きのびてしまう諸観念に対して、異議をとなえたいだけだ。

『差異としての場所』(講談社学術文庫)より
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