Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

マイクロポップの時代

 マイクロポップという考えは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが提唱した「マイナー文学」の概念に触発された。それは、もともと、カフカジョイスベケットのような、自分のもとの言語ではない言葉で文章を書き、メジャーな言語のなかに、ギャップや新しい複合物を作り出したり、高尚な思想やテーマと卑俗な行動や表現を結び付けて、新しい語りの構造を創り出してしまった人々による、モダニズム小説を意味していた。その小説の方法とそれを支える姿勢を、ドゥルーズは、文学批評カテゴリーを超えて、多くの人々が祖国ではない場所で暮らし、メジャーな文化の広範な影響が地域文化の意識の変容を迫る流動的な状況で創作したりする時代における、文化一般の創造のモデルにしようと考えたのである。
 つまり、「ポストモダン」といわれる文化的価値の混乱から、マイクロポップ、あるいは「ポップ」という概念が生まれる。「ポップ」はドゥルーズが、「マイナー」な創造の立ち位置を示すために使うもう一つの表現だ。それは、小文字のポップであり、アメリカのポップアートとは直接的には、関係ない。それは、大衆文化のメジャーなスタイルを指すのではなく、ある場所に特有な文化の新しい形についての意識の出現を促す、基本姿勢を示しているのだ。それは、大都市に住んでいるが、制度には属さず、様々なところから情報を得、高等文化と大衆文化を対等に享受する人の知識の姿を表している。この「小さなポップ」の感性は、大衆文化の製造物のうちに、人々の夢や欲望のアレゴリー的な象徴を読み、「とるにたらない」日常の出来事のなかに、哲学的な意味や、自由に至る行動へのヒントを見いだす。

夏への扉マイクロポップの時代」展@水戸芸術館 リリース資料より松井みどりさんのコメントを抜粋
会期:2007年2月3日(土)〜5月6日(日)
企画:松井みどり美術評論家)、森司(水戸芸術館現代美術センター主任学芸員
出品作家:奈良美智杉戸洋落合多武、有馬かおる、青木陵子
     タカノ綾國方真秀未、島袋道浩、野口里佳半田真規
     森千裕、田中功起、K.K.、大木裕之、泉太郎