Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

「世界はこんなふうにも眺められる(保坂和志) - Web草思」より

◇ 第16回 現代文学の“現代”とは何か?──カフカベケット

 カフカベケットの作品の意味ばかり考える人は、“作品に対する作者の優位の否定”とか“人間が言葉に翻弄される”という能動性の放棄がどうにも受け入れられないということなのだろうと思う。画家が絵筆を思いどおりに動かせないなんて、そんな馬鹿なことがあるか! と感じるのと同じことだ。しかし、小説家は言葉を思いどおりに動かせない。――これが“現代文学”の出発点だ。

 作品の意味を知りたがる人は、つまるところ物事を定義したいのであり、定義することによって世界は固定する――私はこれを“名詞的思考法”と呼んでいる。作品そのものは当然“動詞的思考法”で置かれている――。しかし20世紀に生きる人間は、正確なデッサンを描くように世界を固定することなどできない。
 世界について、安定しているのか不安定なのかと問う以前に、それを問う道具であるところの言葉がそもそも人間を翻弄しているのだ。

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