Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

ガスケ『セザンヌ』岩波文庫入り

◇ 編集部だより 岩波文庫編集部

セザンヌ(1839-1907)の同時代人による、よく知られた伝記は3つある。1つは、画家エミール・ベルナールによるもの、1つは画商アンブロワーズ・ヴォラールによるもの、1つは今回刊行するジョワシャン・ガスケによるものである。エミール・ベルナール(1864-1941)は、画家、美術評論家。パリの画塾でゴッホトゥールーズロートレックと出会い、ゴーガンらとともに、ポンタヴェン派を創始した。多くの美術評を残し、『ゴッホの手紙』にもベルナール宛が多く含まれる。画商ヴォラールは、1895年にパリの自らの画廊で初めてセザンヌの大規模な個展を開いた。この個展は大成功でルノワールドガ、モネらがセザンヌの作品を購入、以後セザンヌ作品の価格は高騰する。若くして画家を志し22歳でパリに出て行くも、国立美術学校の試験に失敗し、サロンには一度しか入選を果たせず、故郷の町エックスで孤独の内に自らの画風を築き上げたセザンヌは、ヴォラールの尽力によって56歳で名を知られるようになった。
 画家、画商としてセザンヌをいち早く見いだし世に知らしめた2人のセザンヌ伝は画家の風貌や筆致を伝えて貴重だが、ガスケのこの『セザンヌ』はそれとは趣を異にする。ジョワシャン・ガスケ(1873-1921)は、ポール・セザンヌの小学校時代の友人でエックスで最も大きなパン屋を営むアンリ・ガスケの息子である。今ではその名は地元の人にもなじみの薄いものと化しているそうだが、生前は、詩や評論を書き、著書はパリの出版社から刊行され、雑誌を起こし、晩年のセザンヌはガスケを介して若い文学者や芸術家と知り合うことができた。
 本書は大きく2部に分かれる。第1部は、「私の知ることやこの目で見たこと」と題され、少年時代からガスケが知り合った頃までの画家の人生、ゾラとの友情、パリでの修業時代、エックスでの日常を描く。第2部は「彼が私に語ったこと」と題され、セザンヌと彼が交わした会話が記録されている。このガスケのインタビューをもとに、ジャン=マリ・ストローブ/ダニエル・ユイレ監督が『セザンヌ』『ルーヴル美術館訪問』という映画を撮っている。今回の文庫化にあたっては、1980年の求龍堂の単行本を基に、新たに図版を加え、補注と訳注を付した。

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◇ ガスケ『セザンヌ』(岩波文庫 訳:與謝野文子

プロヴァンスが生んだ画家セザンヌ。その晩年に親しくつき合った同郷の若き詩人。ガスケは自ら目にし耳にした老画家の姿を丹念に記録した。ゾラとの友情、ルーヴルでの熱狂、そして芸術論…。傷つきやすい天才の複雑な内面を、詩的な言葉で再現した伝記と対話篇。

http://www.amazon.co.jp/dp/4003357310