Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

mkさん(id:Geheimagent)の「石版!」より

磯崎憲一郎『終の住処』 - 「石版!」

今回、芥川賞の選評もチェックしてみたのですが、石原慎太郎が言っていたことがとても真っ当なモノに思えます――「選者に未知の戦慄を与えてくれるような作品が現れないものか」。また、村上龍もこんな風に書いていました――「作者の意図や計算が透けて見えて、わたしはいくつかの死語となった言葉を連想しただけだった。ペダンチック、ハイブロウといった今となってはジョークとしか思えない死語である」。もうなんだか村上龍の性格の悪さが滲み出てくるようなコメントですが、これも真っ当に感じられます。


 どちらの選者のコメントにも「あー、君の言いたいこと、やりたいこと、わかるよ。わかるよ。でも、もうそれは誰かがやっていることだし、いまさら面白くは読めないねえ」というような感想を持っているところで共通している。僭越ながら、私も同じような感想を抱いてしまいました。作者が言うように、ラテンアメリカの作家の影響が文体からは読み取れる(ただし、ガルシア=マルケスと並べるのは明らかに褒めすぎだ)し、また、説明的な文章が過剰で、物語的な起伏がほとんどない平坦な白昼夢的幻想によって物語が組まれる、という言わば反−物語的物語、とでも言えましょうか。そういう風に作品を把握してしまえること自体に、作品の大きさ(小ささ)がでてきてしまう。また、随所に盛り込まれた幻想的描写にしても、突き抜けたところがなく、そもそもあまり面白くなかったです……。

http://d.hatena.ne.jp/Geheimagent/20090816/p2


◇ ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』 - 「石版!」

 二〇世紀初頭、革命派と反革命派がロシア国内で戦うという混沌とした状況の最中、革命派に追われる詩人ピョートルが、ひょんなことから革命闘士に成りすます羽目に陥り……という冒頭は、本格的サスペンス風なのだが、唐突にアーノルド・シュワルツェネッガーが登場し、ハリアーを乗り回したり、アンドロイドだったり、妊娠したり(シュワルツェネッガー主演映画のイメージがコラージュされる)という辺りから、混沌とし始める。また、ロシアに進出してきたサムライの日本人商社マン(タイラ商事に勤務。ライバル会社はもちろんミナモト商事だ)との妄想上の交流は最高にバカで良い。だが、いかんせんメインとなっている二〇世紀初頭の国内戦のなかで、ピョートルとチャパーエフ(革命派の指導者のひとり)と行う、存在をめぐる禅問答が退屈だ。いわば、サルトルなどの実存小説のパスティーシュのようなのだが、ピンチョンやエリクソンに親しみがあったりすると特に目新しくもない。

http://d.hatena.ne.jp/Geheimagent/20090721/p2