Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

岩元真明さんのはてなダイアリーより2題

コールハース「進歩VS終末論」の感想 - ベルリン・レター・パート 2

最近OMAのホームページにコールハースのレクチャー記録がアップされている。

http://www.oma.eu/index.php?option=com_content&task=view&id=132&Itemid=25

とりあえず、"Sustainability: advancement vs. apocalypse"(「サステイナビリティ思想のふたつの潮流: 進歩と終末論」)を読んでみた。

現代の自然観についていろいろ考えさせられテクストだった。以下、かんたんなまとめと長い感想を述べます。

日本においては、「省エネ」や「エコ」と様々に名前を変えるブームは明らかに政治力学と結びついている。その第一の波はオイルショック直後であり、湾岸戦争時にも省エネブームが勃発。現在のエコ・ブームは9.11以降に加速している。オイルの供給に不安がある時代に、政策を背景としてエコ意識が高まるのだ*7。オイル欠乏への不安、それはコールハースいうところの終末論的きっかけである。終末論的エコ意識は、精神論的エコ建築を生む。エコな古民家ライフといった建築商品は、その発露のように思える。

もうひとつ、世界的に見いだされるエコ建築の傾向が緑化だ。これもまた、都市への反発/自然への回帰を志向する、典型的な終末論タイプだろう。緑が温暖化防止に寄与しないとは思わないが、大きな威力があるとも思えない。建築の緑化の話題は、心理的影響とセットで語られることがあまりにも多い*8。


Squint/Opera(fig.3〜4)やStudio Lindforsの温暖化で水没した都市のドローイング(fig.5〜6)では、終末論的傾向に敏感に反応し、それを「美しく」「楽しげな」未来に見せようとしている。これらの表現はあまりにも楽観的ではないだろうか?「破滅的な状況でも人間は希望を捨てない」とでも言いたいのかもしれないが、前提に無責任さを感じる。


ブランドDIESELがキャンペーンをはった、"Global Warming Ready"(「地球温暖化、準備オーケー」)にもまた、上述のドローイングと同様の意図が見いだされる(fig.7)。ディストピアを享楽的に過ごすイメージがクールなのだとしたら、僕はついていけそうもない。

http://d.hatena.ne.jp/masaaki_iwamoto/20091127


◇ ¥€$体制の終焉 - ベルリン・レター・パート 2

円、ユーロ、ドル。世界の三大通貨の頭文字を繋ぎ合わせて、レムは「YES=イエス」と頷いてみせる。つまり、¥€$体制とは、市場経済が世界を席巻した現代社会を示すキャッチフレーズであると同時に、良識的な建築家のように「ノー」と背を向けず、揶揄されながらもその波に乗ることを辞さない、レムのスタンスそのものと言えるだろう。*3

アカデミーの安全地帯からグローバル資本主義を批判するポーズを続けていても仕方がない。むしろ、「¥€$」にあえて「YES」と言い、グローバル資本主義経済の波に乗ってサーフしてみよう。...*4

コールハース = ¥€$体制の肯定者」。これがコールハースについての標準的な理解である。しかし、近年のコールハースの仕事は、ここからの逸脱が見られるようになってきた。

ドバイ・ルネッサンスのプロジェクトで、コールハースはアイコニックな建築が乱立するドバイにおいて、あえて無個性な建築を計画した。これはレクチャーで述べられている「¥€$の終焉」に反応したプロジェクトである。金融資本主義の一夜城であるドバイにおいて、コールハースは¥€$体制が生み出す建築の限界を感じたのである。前掲のドローイングに、自身が設計したCCTVが含まれているのが興味深い。コールハースは、自身の建築すら批判の対象に含めている。


コールハースのこのような変化は、変わり身の早さと見るべきだろうか?必ずしもそうではないだろう。

無数の差異が乱立することで逆説的に無個性な都市が生まれるという発見は、『ジェネリック・シティ』というテクストですでに準備されていたとも言える。しかし、無個性を肯定する「ジェネリックス」がプロジェクトに現れ始めたのは最近だ*5。これらは美学的に見て、はっきりと近代建築を意識しており、モダニティという時代がいまなお継続し続けていると表明しているようである。

http://d.hatena.ne.jp/masaaki_iwamoto/20091129


>>>岩元真明さんの「ベルリン・レター」よりコールハース関連
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080724#p3


>>>La villa Dall'ava(ヴィラ・ダラヴァ)
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20081124#p2