Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

夏目漱石「文展と芸術」(1912年)より

 現に今度文展に落第したため、細君から離縁を請求された画家があるといふ話を此間きかされた。
嘘かも知れない。嘘にせよ、これ程に芸術を侮辱した嘘を孕ませた文展は、既に法外な暴力を差し挟んで、間接ながら画家彫刻家を威圧していると見て宜しかろう。
実際近頃の様に文展の及落が彼等間の大問題になる以上は、ゆくゆくは御上のお眼鏡にかなって仕合わせよく入選した作品でなければ画として社会から取り扱われなくなる。
それを描き上げた作家でなければ又画家として世間に立つことが出来ない様になるだろう。
画家として本末を顛倒して、天の命ずるままに第一義の活動に忠実にさしめる代わりに、ひたすら審査員の評価や俗衆の気受けを目安に置きたがる影の薄い餓えた作品を陳列せしむる様になっては、芸術のため由々しき大事である。

※若干の異同の可能性あり


日本美術展覧会 - Wikipedia

官展の系譜

  • 文部省美術展覧会(初期文展):1907年−1918年
  • 帝国美術院展覧会(帝展)   :1919年−1935年
  • 文部省美術展覧会(新文展)  :1936年−1944年
  • 日本美術展覧会日展)     :1946年−

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%BE%8E%E8%A1%93%E5%B1%95%E8%A6%A7%E4%BC%9A


夏目漱石『私の個人主義ほか』(中公クラシックス

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
近代日本における自前の、そしてリベラルな個人主義の出現。
【目次】(「BOOK」データベースより)
『文学論』序/文芸の哲学的基礎/道楽と職業/現代日本の開化/文芸と道徳/文展と芸術/素人と黒人/私の個人主義/思い出す事など

http://books.rakuten.co.jp/rb/item/1399369/
http://www.amazon.co.jp/dp/4121600207