Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

アッバス・キアロスタミ『シーリーン』(2008年)

YouTube - Shirin meets The English Patient

The audio is the closing scenes from The English Patient, the images are from Abbas Kiarostami's Shirin... the effect is beguiling..

http://www.youtube.com/watch?v=2p9PCR_uHlw
オリジナルではないようですが一応。


◇ シーリーン - 東京国際映画祭(2009)

[解説]
巨匠キアロスタミ、驚愕の実験作。イランの古典叙事詩に基づく悲恋物語「シーリーン」の映画が上映中。しかしカメラはそれを写さず、客席で鑑賞する100人を超える女優たちの顔だけを次々にとらえ続ける。クライマックスが近づき、彼女らの目には大粒の涙が光り始める…。

[あらすじ]
『Shirin』は12世紀のイラン人詩人ニザーミー原作の情熱的な愛についての物語であり、また110人以上の女優を観客に、劇中劇でシーリーン自身がホスローとの愛を語る物語でもある。観客は自分たちが見ている映画のヒロインと一体化する。その時、観客は見る側としての主体と、見られる側の客体の、双方になり得るのだ。

http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=101


◇ 顔の映画ふたたび・・・『シーリーン』その他 - new century new cinema

もちろん観客はこの映画のフィクションの設定を受け入れるが、女たちの見つめる視線の先に本当に何があるのかは見えないし、そもそもクローズアップで写し出される女たちがほんとうに皆同時に一つの場所にいたかどうかもわからない。歴史メロドラマのサウンドも妙に安っぽいスタジオで作ったらしく聞こえなくもない・・・実際インタビューを読むとキアロスタミ家のリビングルームにしつらえた客席に女優たちを個別に座らせ視線を集中させたり涙を流させたりする(だからこそ素人ではなくプロを雇ったのだ)だけの作業を延々繰り返し、サウンドはその後で声優たちを雇いスタジオで制作したらしいが、客席全体を見渡した画面がなく奇妙に空席が見えるあたり、わざわざ仕掛けへの疑念を抱かせないでもない微妙な作りではある。

だがキアロスタミは古典映画の作家たちが撮影したいわゆる「美人」に被写体を限定することはない。あらゆる年齢層の女性たちのクローズアップを90 分にわたって撮り続け提示する自由さはハリウッドにはない、と言っているかのようでもある。またそれは徹底的に目の前のものに反応する顔の映画、「リアクション」の映画でもある。マノエル・デ・オリヴェイラは『裁かるるジャンヌ』のように美しい」と言ったらしいが*、その言葉どおりかどうかはともかく、かつて『家路』でジョイス原作の映画版「ユリシーズ」を演じるミシェル・ピコリを見せる代りにそれを見つめる監督役ジョン・マルコヴィッチの顔を延々と見せていた彼だからこその反応だろう。

そしてまたそれらの「リアクション」は作り上げることができるものであることを示唆することで、いつものようにキアロスタミは映像における「真実性」と「真実」を分離することを提案する。たびたび述べてきたように、映像の自己批判は例の湾岸戦争開始に貢献したクウェート大使の娘の涙をはじめ昔も今もメディアにおいて日常的に行われているイメージ操作への批判だ。もちろんイランの人であるキアロスタミ自身はその理由について語ることはないだろうが、イスラム革命偶像崇拝禁止と映画館やフィルム焼き討ちの時代を通過した時代の映画作家として彼は映像と音の力と危険を熟知しているのだ。

おそらくはより我々が日常的にツールとして映像を扱うことになった時代に見合った批判と言うことになろうが、もしこうした類の映画たちがコマーシャルではないという理由で日本公開されないなら、映像を教えている大学や学科でいっそフィルムを買って字幕をつけて巡回させるべきである。と言っても実際はDVD を買ってしまうだけだろうが・・・映像と音の扱い方を教えるだけでこれら現代映画が批判しているメディアの危険性について(そしてそれを乗り越える方法について)論じられないなら、いつか情報操作やプロパガンダ要員の大量育成機関とのそしりは免れまい。

http://www.ncncine.com/facencncine.html
http://www.ncncine.com/
赤坂大輔さん(https://twitter.com/daiakasaka)のウェブサイトより。


◇ 『シーリーン』(アッバス・キアロスタミ/2008) - maplecat-eveの日記

上映前にキアロスタミからの伝言ということで「日本の観客は世界一我慢強い。今回は30分だけ我慢してください。30分だけ我慢したらご褒美があります」というコメントが発表される。承知してます。とはいえ、まさか91分をアレだけで乗り切るとは!隣でノートを開いて一生懸命メモしていた女性(映画ライター?)は途中で深い眠りに落ちたようです。かくゆう私は先日のギー・ドゥボール『サドのための絶叫』で妙な免疫ができていたせいか全く眠くはならなかった。ただ、上映後、一部の方の大きな拍手喝采の傍らで、本当に考えさせられた作品でもあります。作品制作に2年かけたというキアロスタミの情熱的挑発に。

http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20091020/p2

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(参考)


◇ "Sight" (2006 - on going) - YokoAsakai.com
http://www.yokoasakai.com/Archive/?c=04
http://www.yokoasakai.com/
朝海陽子さんの「Sight」シリーズ。


>>>ゲイリー・ヒルの場合

YouTube - Gary Hill, Viewer, 1996
http://youtube.com/watch?v=y3PA1rxwLbs

http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080326#p6