Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

再録(http://d.hatena.ne.jp/n-291/20100406#p4)+2

■もはや過去の話ですが「The 2008 BMW- Paris Photo Prize for contemporary photography審査員賞」について
出展作品とその意味について解題する記事を書こうかと思いますが、時間もありませんし、ごく簡単に。
とにかく、このときに出展した写真は、結局のところ未遂(未完)に終わってしまった作品でした。
残念なことですが。。。


2008年のレギュレーションは、

賞金:12,000ユーロ
ルール:
・最終選考で選ばれた作品をCarrousel du Louvreで展示
・輸送費などの費用は申込者が負担
・10/15に最終選考で選ばれた作品を発表
・11/13に受賞者を発表
・受賞者の作品画像は1年間色々なメディアで使用され、作家名とギャラリー名が記載される。


テーマ:BMWの広告キャンペーン"Never Stand Still"に関連するテーマ
・旅の経験
・自ら変化を受けている世界での変異の過程を促進し、挑戦している
・儚さ、時間やスペースの動き、変化などを捉えている

というもの。*1


しかし、受賞作品が世界でも有数の自動車メーカー(自動車産業)の
広告キャンペーンに使用されるようなコンペティションに、
何の考えもなくベタに参加してしまうことには、
さまざまな理由から抵抗を感じていました。


そもそも、私は広告カメラマンではありませんし、
コミッションワークとして合意の上で作品を提供するわけでもないのに、
安易に広告企画に乗っかってしまうことはできません。


そこで、私はBMW - Paris Photo Prizeに対して、
当時考えていた事柄(http://www.nobuhiro-fukui.com/frame_statement.html*2に準ずる


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私が最も興味を持っているのは、
私の写真を目にした人々が、私の写真に感染することで、
何を見るのか、何が見えるようになるのか、ということです。
写真それ自体は、光の痕跡を捉えた「Stand Still」なイメージにすぎませんが、
そのイメージのありようと提示の仕方によっては、
「Never Stand Still」なヴィジョンをもたらすものだと考えています。
そして、優れたヴィジョンとは他者に転移し、
それともまた異なる新たなヴィジョンを生起させていくものです。
どこまでも静止してあることで、時を震わせ、空間の変異をもたらし、
世界のありようを揺り動かしていく写真の力。
そうした力を信じることで、私は制作を続けています。

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というステートメントとともに、
東京某所で撮影した日本の自動車メーカーTOYOTAの関連施設の写真でエントリーしました。
日本最大手のTOYOTAトヨタ)はBMWの最大のライバル企業でもあるでしょう。
端的に言えば、このときのエントリー作品はBMWにとっての「ウイルス」です。
しかし、もちろんBMWにも、スティーヴン・ショアー(Stephen Shore)を含む審査員の面々にも、
その写真に写っている施設がトヨタのものだとは伝えませんでした。


エントリーした作品は、とりあえず最終選考に選ばれてカルーゼル・ドゥ・ルーヴルの上階で展示されもしましたが、
最終的にこの写真は、審査員賞(Mention speciale du jury (Jury distinction))*3どまりでした。
http://tkgallery.exblog.jp/9868748/
http://tkgallery.exblog.jp/9880175/


これが受賞作品となっていれば、契約書への調印かなにかを経て受賞作を使った広告キャンペーンが始まるころに、
それがトヨタの関連施設の写真だったということを明かし、
それでも1年間広告キャンペーンに使用するか否かの判断をBMW側に問うことができたのですが、
グランプリを受賞できなかったことで、私の企図は未遂に終わり、
このとき考えていたもろもろの計画はそのまま未完となってしまいました。。。*4


これまで、ごく限られた人にしか伝えていなかったことですが、とりあえず。

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>>>EV(電気自動車)時代到来の予感は本物か - マル激トーク・オン・ディマンド - ビデオニュース・ドットコム インターネット放送局
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20100816#p4


>>>「クルマ社会の過去・現在・未来」 - 文化系トークラジオ Life
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20100816#p5

*1:テーマの訳は硬いです。それだけ抽象的なお題だったということ。

*2:私は、私の写真をある種のウイルスだと位置づけています。たとえば、盲目の
  人が光を取り戻したとします。網膜に差し込む十分な光、視神経から脳髄に伝
  達される正常なパルス。しかし、その人は、目に届く光を感知できたとしても、
  しばらくは「もの」を見ることができないでしょう。視覚経験のデータベース
  に「もの」が登録されていないからです。「見たことのないもの」は「見えな
  い」ということです。「もの」が見えなければ、空間=外界世界が知覚される
  こともありません。では、「もの」が見える人はどうでしょうか。データベー
  スは過去の視覚経験から選択保存されたものです。今日、人々の視覚経験は、
  直接的にも再帰的にもメディアから大量供給される映像と情報に規定されてい
  ます。敷衍して言えば、人が何を知覚するのかは、「もの」ではなくメディア
  によるということです。そうした状況にある人々が、私の写真に感染すること
  で、何を見るのか、何が見えるようになるのか、ということに興味があります。
  http://www.nobuhiro-fukui.com/frame_statement.html
  ※2007年5月のステートメントを参照

*3:2009年は折元立身さんが受賞。
  http://d.hatena.ne.jp/n-291/20091123#p5

*4:自動車産業の効用と弊害、悪か善かについては、いまだに私の中で決着が付いていません。
  もちろん超越的視点を有する存在でもない私が、そんなことを簡単に判断できるはずもありませんが。