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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

ニーチェを搾取し、ビジネス書を売りさばく今の出版界は死すべきか? - 日刊サイゾー

 今、都内の大型書店に行くと必ず平積みで置かれ、文芸、人文思想界隈で話題となっている本がある。佐々木中氏の『切りとれ、あの祈る手を <本>と<革命>をめぐる五つの夜話』(河出書房新社)だ。哲学、現代思想、理論宗教学を専門とする佐々木氏が、文学(本を読み、読みかえ、書き、書きかえること)が、これまでいかに革命を成し遂げてきたか、ルターやムハンマドなどを例に、思想・哲学の専門家にではなく、本を愛するすべての人に語り下ろした良書だ。


 今回、著者の佐々木氏に、「若者の活字離れ」「出版不況」が叫ばれる中で、出版点数だけは右肩上がりに増える日本での「本の消費のされ方」をテーマに話を聞いた。


――まず、思想界に衝撃を与えた処女作『夜戦と永遠』(以文社)以来、2年ぶりとなる本書を出版した経緯を教えていただけますか?
佐々木氏(以下、佐) 前作を出版してから、こんな不況のご時世にもかかわらず、ありがたいことに新書や入門書を書かないかというオファーをたくさんいただいたんです。ただ、そういうものを書くと、その後、すべてのものについて、気の利いた一言を差し込むようなワイドショーのコメンテーターのような知識人になってしまうという危惧があり、頑なに断ってきました。そんな中、今年の2月にライムスターの宇多丸さんと対談をする機会があり、その後、朝まで飲んだんです。ライムスターというグループは、ラップで飯が食えるなんて考えられない時代から、ハードコアなまま、いかに売れるかで戦ってきたグループです。そして、KREVAくんやRIP SLYMEなど、後進をフックアップしてきた。そんな先輩に「『夜戦と永遠』のような学問的にしっかりした本を書いたんだから、もう後から来る人を勇気づけるために間口を拡げることもしないといけないよ。佐々木君は、ハードコアな自分が好きで、売れない自分が好きと言うけど、それは結局、自分のことしか考えてないってことだよ」と諭されて、非常に悩んだんですね。そこで、尊敬する河出書房新社の名編集者・阿部氏に相談すると、「佐々木さんが私的な場で言っていることは、今の若い人たちに、今必要なんだ」と言われ、この本を書くことになりました。

http://www.cyzo.com/2010/12/post_6186.html