キュレーション――「現代アート」をつくったキュレーターたち
ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Hans Ulrich Obrist, 1968-)著 村上華子訳
フィルムアート社 2013年8月 本体2,400円 四六判並製360頁 ISBN978-4-8459-1312-1
帯文より:世界的なキュレーター、H. U. オブリストが迫る、現代アートのシステムがつくられるまでの歴史。
★発売済。原書は、A Brief History of Curating(Les presses du réel, 2009)です。版元さんによる紹介によれば本書は「キュレーションという概念の黎明期に活躍したキュレーター11名に、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが行なったインタビューを収録」したもので、「1960年代から1970年代の初期インディペンデント・キュレーティングから、実験的なアートプログラムの台頭、ドクメンタや国際展の発展を通じてヨーロッパからアメリカにキュレーションが広がっていった様」が明らかにされます。キュレーターという職業が「どのように成立してきたか、展示の方法や展覧会の作り方はどのように進化してきたか、今後キュレーションはどのような方向へ向かうのか。アートとキュレーションの関係を考える上で決定的な1冊」になっているとのことです。
★11人のキュレーターというのは次の方々です。ウォルター・ホップス(Walter Hopps, 1932-2005)、ポントゥス・フルテン(Pontus Hultén, 1924-2006)、ヨハネス・クラダース(Johannes Cladders, 1924-2009)、ジャン・レーリング(Jean Leering, 1934-2005)、ハラルド・ゼーマン(Harald Szeemann, 1933-2005)、フランツ・マイヤー(Franz Meyer, 1919-2007)、セス・ジーゲローブ(Seth Siegelaub, 1942-2013)、ヴェルナー・ホフマン(Werner Hofmann, 1928-2013)、ヴァウテル・ザニーニ(Walter Zanini, 1925-)、アン・ダノンコート(Anne d'Harnoncourt, 1943-2008)、ルーシー・リパード(Lucy Lippard, 1937-)。巻頭の序文をクリストフ・シェリックス(Christophe Cherix)、巻末の「後記――来るべきものの考古学」をダニエル・バーンバウム(Daniel Birnbaum)が書いています。
★オブリスト自身もキュレーターであり、美術評論家であり、インタヴューの名手でもあります。これまで翻訳されたインタヴュー集に、『コールハースは語る』(瀧口範子訳、筑摩書房、2008年)、『ザハ・ハディッドは語る』(瀧口範子訳、筑摩書房、2010年)、『アイ・ウェイウェイは語る』(尾方邦雄訳、みすず書房、2011年)、『プロジェクト・ジャパン――メタボリズムは語る』(レム・コールハース共著、平凡社、2012年)などがあります。これらの既刊書によってこれまで日本では、オブリストの活躍は建築系の分野で認知されてきました。瀧口範子さんによる取材記『行動主義――レム・コールハース・ドキュメント』(TOTO出版、2004年)の中では「コールハースとともに走る11人」の内の一人として瀧口さんによるオブリストへのインタヴューが顔写真とともに掲載されています(308-317頁)。
★一方、美術系ではアーティストへのインタヴューが『ゲルハルト・リヒター――写真論/絵画論』(清水穣訳、淡交社、1996年;増補版、2005年)や、『ヴォルフガング・ティルマンス“インタビュー”』(清水穣ほか訳、Wako Works of Art、2010年)に掲載されています。また、この分野でのオブリストへのインタヴュー「アートとは思わぬところに立ち現れるものである」が辛美沙『アート・インダストリー――究極のコモディティーを求めて』(美学出版、2008年)に収録されています。今回の新刊はむろん美術系インタヴューに属するわけで、書店さんの芸術書売場においてオブリストの名前がいっそう浸透しそうな気がします。本書は「数多いオブリスト関連書の中で、初の「キュレーション」に関する内容」(版元案内文より)で、オブリストが自身の先達にキュレーションの開拓史を尋ねていきます。彼らの多くは美術館の館長だったり、独立系キュレーターだったりしますが、アートディーラー(ジーゲローブ)や美術評論家(リパード)としての顔も持っている人々にも話を聞いています。これまでキュレーションないしキュレーターの役割についての本は日本では新書や訳書など複数刊行されてきましたが、その道の世界的に著名なプロフェッショナルの貴重な肉声を集積したものは本書が初めてだと言って良いと思います。
★キュレーションは編集術の賜物ですから、私たち出版人や書店人にとってもその歴史や技法はたいへん興味深いものです。職業としてのキュレーターに興味をもたれた方は、本書とともに『キュレーターになる! ――アートを世に出す表現者』(住友文彦ほか編、フィルムアート社、2009年)や、長谷川祐子『キュレーション――知と感性を揺さぶる力』(集英社新書、2013年2月)を読まれると良いかと思います。書店業における近年のVMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)の重視は、「空間/劇場」としての書店の更なる洗練と進化を模索するものですが、わけてもキュレーション的要素は今後いっそう業界で研究され応用され検証されることになるでしょう。そうした過程における基本的なアーカイヴのひとつとしてオブリストの本は残っていくと思われます。
http://urag.exblog.jp/18437544/
◇ ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『キュレーション 「現代アート」をつくったキュレーターたち』(訳:村上華子 フィルムアート社)
http://www.amazon.co.jp/dp/4845913127
http://filmart.co.jp/books/fine_arts/2013-7-24wed/