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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

美術批評 全13巻+別巻1 - ゆまに書房

美術批評 全13巻+別巻1
[監修] 北澤憲昭 [解説] 光田由里 [協力] 株式会社美術出版社
揃定価236,520円(揃本体219,000円) 
ISBN 978-4-8433-4281-7 C3370
A5判/上製/クロス装/函入
刊行年月 2014年05月(予定)

気鋭の批評家による文章を数多く掲載し、戦後の美術界を牽引した雑誌、『美術批評』全62号を復刻。

【本書の特色】
●戦後の美術界を牽引した批評家、作家の重要テキストを数多く掲載。
●国内外から注目を集める日本の戦後美術を研究するうえでの必須文献。
●別巻索引では、人名、展覧会、美術館、画廊を採録予定。

『美術批評』とは 1952年(昭和27年)1月創刊、1957年(昭和32年)2月に第62号で「絶刊」するまで、美術出版社(現・株式会社美術出版社)から発行されていた月刊誌。鑑賞本位の既存の美術雑誌とは一線を画した体裁と、問題提起を仕掛けて発言の意欲をもつ人に論争の場を提供するという一貫した編集方針を採った。執筆者は有名無名にかかわらず、その出自も美術以外の文学、映画、演劇、建築、音楽、漫画と多岐にわたっている。

●特にお薦めしたい方
近代美術史、美学、美術史、文学、デザイン、日本近代史、 メディア史の研究者・研究所、大学図書館など。


『批評の初心』   美術評論家・美術史家 女子美術大学教授 北澤憲昭

 サンフランシスコ条約発効を目前にひかえた1952年1月に『美術批評』は創刊された。その名のとおり美術にかんする言論の場として設けられた雑誌で、月刊ペースで57年2月まで五年にわたって美術出版社から発行された。戦中の雑誌統制期以来、同社の二本柱でありつづけてきた大下正男、藤本韶三のコンビネーションのもと、西巻興三郎が編集にあたった。
 現在も『美術手帖』誌に場を変えて続く「芸術評論」賞を設け、東野芳明中原佑介多木浩二、中村義一ら戦後を代表する美術評論家を世に送り出したのは同誌である。審査にあたったのは瀧口修造、今泉篤男、植村鷹千代ら戦争をかいくぐってきた批評の先行者たちであったが、このうち瀧口は、同誌からスタートする60年美術批評にとって教父のような存在でありつづけた。受賞者ではないものの針生一郎瀬木慎一も、この雑誌から批評家としての経歴をスタートさせている。
 つまりはプロの美術批評家の育成の場であったわけだが、育成の手法はスパルタ主義であった。読者をも交えた論争によって批評的言説を鍛えあげていったのである。批評の在り方を問いかけるテキストをしばしば掲載する一方、「ROUND TABLE」という読者欄を設けて批評的フィードバックを奨励することで論争状況を醸成していったのだ。メタ批評を誘発し、批評の自意識を高める育成法である。
 論争は、批評の脊柱である。批評が批評である以上、たとえ実際に論争を惹き起こすことがなくとも、なにごとか論争の種子を必ず含む。そもそも、批評的テキストは、自己のうちに育んだ論敵との応答の繰り返しのなかから生まれるものなのだ。そればかりではない。あるジャンルにおける批評とは、そのジャンルにおける最も先鋭な自己意識、ついには当該ジャンルの他者に転化するまでに先鋭な自己意識の書法にほかならない。だから、この雑誌が終刊間近にシュルレアリスムにかんするレポートと討議を連載したのは決して偶然ではない。シュルレアリスムとは、ほんらい芸術にとっての他者であったはずだからである。
 『美術批評』誌の復刻合本は、史料として役立つのみならず、論争なきこの時代に批評の初心を思い起こさせてくれる貴重な啓発の書冊ともなるだろう。

http://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843342817