Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

positive01(書肆風の薔薇) - NoReadingIsMyOtherLife

ラリイ・マキャフリイ〈ピンチョン以後のポストモダン
文中に〈プリズム的〉という言葉があるけれどまさに80年代を終えた現代アメリカを描くにあたってマキャフリイは怒濤のように作家名と重要キーワードをハイピッチでぶちまけ示してみせる。本書収録のレイナーインタビュー前置きではこの前衛作家の二作目に当たる短編集が大手出版社にて用意されたことの驚きを示しているが、状況は、アヴァンギャルドな手法がもはやメインストリームであり、単一の真実/リアリズムでは現在を描けないという自意識=リフレクシヴ vs 現実模倣=ミメティック、シュミラークルなハイパーリアリティ、DOWN & IN――あまりに地上的=アバーヴグラウンドなパワーリアリティその混乱=高揚感、そしてブルース・スターリングいわくのジャンル融合=スリップストリームだ。面白いのは、そういった多元状プリズムメディアによる身体浸食から生じる本質的悲劇を描くドン・デリーロを扱い、ヴォルマンのようなアウトローばかり登場する作家を扱い、少数民族・少数派集団による小説に注目する。ラリイ・マキャフリイが〈アヴァンポップ〉と述べるとき、それはやはり〈ポストモダニズム〉の前衛なのだ。
ラリイ・マキャフリィ「アヴァン・ポップ 増補新版」(新潮社)■1995年に刊行されたこの本が、再び2007年7月、書店に現れた。文庫ではなくハードカバーとして現れたのは、これが資料ではなく進行形で発されたいメッセージであるからかもしれないと、そんな読後感を持った。追加された文章は本書巻末に載っているが、マキャフリィによる序文(ここにアヴァンポップ追加10選を含む)と巽孝之による序文、そして、対談マキャフリィ×筒井康隆(1995年に「現代思想」に収録されたもの)最後に、巻末の雑談だ。必読なのは新版のために追加された二つの序文。マキャフリィはmyspaceから話題を始めたのち、〈抵抗〉の姿勢として、消費材とマスメディアに焦点を定めるポップアートと〈境界侵犯的転覆の精神のもとに過激な形式的手法を採用してきた〉アヴァンギャルドを結びつけるアヴァンポップ作家たちの共通項として〈マスカルチャーに幻惑されるとともに反発すること、そして、マスカルチャーに参入し開拓しはしても、決してこの領域にとことん飲み込まれたりその手先になったりはしないこと〉を挙げている(ここでアンディ・ウォーホルを再現しない姿勢が指揮される)。これは、アヴァンギャルドすら吸収してしまうマスメディア的ポップカルチャーを賛美するのとは全く逆の姿勢だ(たとえば気になるのは〈現実スタジオを急襲せよ〉という言葉で、深刻な問題提起としてマキャフリィはこれを使っているのだろう。しかし、この言葉のキャッチーさゆえに、現実スタジオを急襲するゲームとして自動化し、ファッショナブルにそれを遊ぶ文化ができる。ファッションが軽薄かというとそうではなくて個々真剣なのは間違いないけれど、主観と客観の狭間に立つメタフィクション的問題提起はやはりそこにはすでにないのだ。そう考えなければ新録の雑談で延々なされる批評業界ごっこを受け止めることはできない)。また、アヴァンポップ二大新星としてマーク・アメリカ、ランス・オルセンの名が挙げられている。一方、巽孝之による新序文では〈抵抗への理論〉を皮切りに、笙野頼子のアヴァンポップ宣言が採り上げられていて興味深い。ちなみに旧版から引き継がれた本文個所で興味深いのはキャシーアッカーインタビュー(没後の今、読むという新しい体験になる)とAZZLOインタビュー(オタクカルチャーと結びついた今のフェティッシュシーンから遡って読み返し思ったことは、僕はここで語られるような-ismであるフェティシズムが好きだったんだろう)。〈抵抗〉については下の風間賢二レビューを参照。

http://kobe.cool.ne.jp/babies/alt/leyner.html


松岡正剛の千夜千冊『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1124.html


◇ #27-1. [特別編] “アヴァン・ポップ・プラス” ツアー開催報告 - CPA MONTHLY by Takayuki Tatsumi & Mari Kotani
http://d.hatena.ne.jp/cpamonthly/20071019


◇ #27-2. [特別編] 『アヴァン・ポップ増補新版』講演旅行報告 - CPA MONTHLY by Takayuki Tatsumi & Mari Kotani
http://d.hatena.ne.jp/cpamonthly/20071025