『リアルなものの回帰』ハル・フォスター
The Return of the Real: Art and Theory at the End of the Century, Hal Foster
批評家であり、『オクトーバー』誌の編集委員を務めるハル・フォスターの著書。1996年にMITプレスから出版された。序文でフォスターが述べるように、60年代〜90年代の美術を分析した本書は、「通時的(歴史的)な軸と共時的(社会的)な軸を、作品と理論の双方において取り持つこと」を目的として書かれた。オクトーバー派の分析方法の主流をなすポスト構造主義や精神分析理論の応用は本書でも踏襲されており、この一文からは、構造主義的な共時性と歴史的な垂直軸の併存のもと、現代美術を広範な理論的・歴史的・社会的布置のもとに捉えなおそうとするフォスターの野心が伺える。本書でフォスターは、ミニマリズムとポップ・アートを後期資本主義経済との並行性とともに論じ、またM・ケリーやK・スミスなどの作品にトラウマ的な主体が登場してきたことを着目し、そこに「おぞましい身体=リアルなもの」の回帰を見る。とはいえ、本書に一貫しているのは、作品を社会反映論的な生産物として論じる姿勢ではなく、むしろポスト・モダンの実践が既存の制度的枠組みに抵抗する理論的戦略であるとする視点である。この著作によってフォスターは、90年代以降のアブジェクト・アートや文化人類学的な傾向を持った美術にいち早く理論的な枠組みを与えた。
著者: 沢山遼