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福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

アブジェクション/おぞましいもの | 現代美術用語辞典ver.2.0

アブジェクション/おぞましいもの
Abjection
ブルガリア出身の思想家ジュリア・クリステヴァ(1941-)が著書『恐怖の権力──〈アブジェクシオン〉試論』(1980)のなかで用いた概念。一般的に、対象に関わる場合は「おぞましいもの」、行為に関わる場合は「棄却」と訳されるが、原語のabjection(仏:アブジェクシオン、英:アブジェクション)にはこの対象、行為双方のニュアンスが含まれる。 「アブジェクション」とはもともと精神分析の用語であり、主客未分化の状態にある幼児が、自身と融合した状態にある母親を「おぞましいもの」として「棄却」することを意味する。クリステヴァは、『恐怖の権力』以後の著作でもこの言葉をたびたび用いているが、特筆すべきはそのイメージ論や芸術論への応用である。その代表例が、クリステヴァ自身が企画した展覧会「斬首の光景」(ルーヴル美術館、1998)に合わせて刊行された展覧会カタログである。同カタログのなかで、クリステヴァは「アブジェクション」をキーワードのひとつとして用いながら、デッサンを中心とする同展の出品作品を大胆な仕方で論じている。 他方、クリステヴァの「アブジェクション」という概念は、ロザリンド・クラウス、イヴ=アラン・ボワの企画による展覧会「アンフォルム」(ポンピドゥ・センター、1996)のカタログのなかで強く批判された。クラウスとボワによる批判の背後には、クリステヴァによる「アブジェクション」(およびそれに影響を受けたアブジェクト・アート)と、彼らの提唱する「アンフォルム」をそれぞれ実体的、操作的なものとして差別化せんとする批評的戦略が読み取れる。
著者: 星野太

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◇ 1028夜『恐怖の権力』ジュリア・クリステヴァ|松岡正剛の千夜千冊
http://1000ya.isis.ne.jp/1028.html


◇ 吐き気──「不定形」の反美学|宮崎裕助 - SITE ZERO
http://site-zero.net/contents/vol0/post_2/