「デリダの曲芸」
これはデリダが「ミメーシス」をテーマにした著作に寄稿した論文の翻訳だ。ほかの共著者たちとしては、サラ・コフマン、ラクー=ラバルト、ナンシーなどがいる。すでにミメーシスをめぐる著書もあるラクー=ラバルトのものなど、他の著者の論文も読んでみたかった。なぜデリダの論文一本だけで一冊の訳書にしたのかという疑問はあるとしても、デリダはこの書物で素晴らしい曲芸をみせる。
デリダがまだ写真を公表しなかった頃の挿絵に、デリダが逆立ちしているのがあったと記憶するが、この論文でデリダは空中ブランコさながらの飛び技をみせる。その飛び方の見事さにはただ感心するばかりであり、読者もぜひその芸を観賞していただきたいものだと思う。まずデリダはカントの『判断力批判』を読解しながら、ミメーシスに関するカントの「全考察」が、「賃金に関する二つの指摘に挟まれる」形で展開されているという奇妙な状況に注目する(p.7)。それは偶然なのか。デリダはそう問うことで、読者に挑戦しながら、謎解きを始めるのである。
最初の場所では、芸術家の仕事について指摘される。報酬をうけとる芸術家の仕事と、自由な芸術家の仕事が比較される(四三節)。第二の場所では、芸術において「精神はみずからに従事」する必要があり、他のいかなる目的をも考慮してはならないし、あらゆる賃金から独立していなければならない」(五一節)ことが強調されるのである(p.8)。
http://booklog.kinokuniya.co.jp/nakayama/archives/2007/02/post_28.html