“私たちが言葉を読むのには程度の差があります。テクストに大きな価
値をみとめない場合、私たちはいくつかの段落を飛ばすことがよくある。
展開がじつに凡庸なので、先がどうなるかわかってしまうことがある。
私たちはページ上で自分の道筋を選択しています。指標から指標へと駆
け抜けていきます。精読しようとするときでさえ、私たちの注意力には
さまざまな揺らぎがあり、そのため、たとえばこれまですでに二十回も
読んだことのあるテクストについて講義を準備しているときに、新しい
ことを発見したりする。しっかり読んであったのに忘れてしまったもの
もある。しかしまた、それまではまったく注意を払わなかったものもあ
るのです。そして、これまで注意していなかったものの重要性を改めて
私たちに示してくれるものこそ、私たち自身の批判的な思考、私たちの
読書、私たちのエクリチュールの進展にほかならないのです。 ”
ミシェル・ビュトール『即興演奏』 第十二章・五二「読解可能性」より
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