Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

古井由吉さんの『野川』と『白暗淵』

古井由吉『野川』(講談社

すべて過ぎ去り、しかも留まる。
戦後半世紀余の時空を往還し喧噪の彼方へ耳を澄ませば、幽明の境に死者たちはさざめき生者は永遠の相へ静まる。
傑作長篇小説
お互いにいたわり、助けあって、深みへ入って行く。長い道を二人して来た末に、女の眼がうすく開いて、瞼をちらちらと顫わせ、笑みを浮かべて遠のいていく顔つきになりながら、背にまわした腕に力をこめてくる。大勢の交わりを、ここで交わっていた。済んで並んで仰向けになった後から、女の息がもう一度深くなる。遅れて家中に息が満ちるように聞こえた。それも静まってまどろみかけた頃、あたしたち、こうして、死んでいるのね、もうひさしく、と女はつぶやいた。(本文より)

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◇ 今週の本棚:高井有一・評 『野川』=古井由吉・著 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/enta/book/hondana/archive/news/2004/07/20040711ddm015070146000c.html


古井由吉『白暗淵』(講談社

現代文学最高峰の作家・古井由吉、最新連作短篇小説集
言葉が用をなすその究極へ、著者の新たなる到達点。

女教師はちょうどこちらへ背を向けて、黒板に「暗黒」と細い指で大書して「くらき」と仮名を振り、光は暗黒に照る、而して暗黒は光を悟らざりき、と暗誦した。(中略)
その夜になり、自分はたしかに女教師の視線をまともに受けて、もうすこしのところでうなずきそうなまでになったけれど、相手の口にする闇という言葉に反応しながら、
内には闇らしいものも見えなかった、と坪谷は訝った。闇もなければ光も射さず、ただ白かった。いよいよ白くなっていくようだった。
--「白暗淵」本文より


静寂、沈黙の先にあらわれる、白き喧噪。
さざめき、沸きたつ意識は、時空を往還し、
生と死のあわいに浮かぶ世界の実相をうつす。

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◇ 『白暗淵 しろわだ』に寄せて 古井由吉 - 講談社BOOK倶楽部
http://shop.kodansha.jp/bc/magazines/hon/0801/index01.html


◇ 書評『白暗淵』 古井 由吉 屍満ちる凄惨な時間を往還 - 中日新聞東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/book/shohyo/shohyo2008030201.html