Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

「鳥にとっての鳥類学」 …… 芸術家と美学(美術と美学)をめぐって

◇ Tauchi Takatoshi: もしあなたたちが正しくて、ひょっとして、芸術だか絵画 ... - Twitter

もしあなたたちが正しくて、ひょっとして、芸術だか絵画だかいうものを説明できるような、美学的分析あるいは体系を打ち建てることが出来たとしても、そんなことにほとんど価値はない。なぜなら、私にとって美学とは、鳥にとって鳥類学がそうであるに違いないようなものだからです。ーB・ニューマンー

http://twitter.com/Tauchit/status/18072319890
私は「価値がある」と考える立場ですが、一応。


美学会西部会 第240回 発表要旨 バーネット・ニューマンの美学批判とその帰結 - 竹中 悠美の授業用ホームページ

 この問題を率直に提起した事例として、1953年の画家バーネット・ニューマンによるアメリカ美学批判に注目し、彼の発言内容とその背景の検証から始める。
 「画家にとって美学とは、鳥にとっての鳥類学にすぎない」というニューマンの発言は、「美学と芸術家」というテーマでアメリ美学会ウッドストック芸術家協会が主催した会議での講演の中で述べられた。ニューマンの批判は漠然と美学に向けられたのではなく、特定の美学に向けられていた。すなわち、当時、影響力のあったスザンヌ・ランガーの記号論的芸術哲学への批判と「科学としての美学」という客観的な学問態度にあった。ニューマンの提起した問題に対して、間もなくトーマス・マンローやエミール・ウーティッツという美学者側から、そして画家ベン・シャーンからも意見が寄せられたが、双方の議論は平行線を辿っている。マンローやウーティッツの論点は芸術家にとっての美学的知識や思索の有用性にあり、シャーンの論点は芸術作品の価値判断についての美学の有用性にあったのである。具体的な作品の価値の問題を含めて美学的な議論を行いたいという芸術家の要望と、それに応えたのはアカデミックな態度という理由から価値判断の問題を避けようとした美学者よりも美術批評家の方であったことをシャーンの発言は明らかにしている。
 ニューマンやシャーンの発言が明らかにした芸術家と美学者との芸術および芸術理論についての認識の相違は、それ以降さらに距離を広げていった。アメリ美学会の組織的な方針は、1950年代には美と感性についての哲学よりも一般芸術学への転向を測っていたのだが、1960年代以降、芸術記号論と分析美学という言語哲学系の芸術哲学が支配的となる。その一方でミニマリズムパフォーマンス・アートとその批評が依拠したのは現象学であった。
 リチャード・シュスターマンは分析哲学現象学を対立項として措定し、ジョン・デューイ、モンロー・ビアズリー、ネルソン・グッドマン、アーサー・ダントーという4人の美学者の系譜の中にアメリカ美学における現象学的観点と美的経験の概念の衰退を見る。そしてそれを極めたのがダントーの芸術論であるというが、ダントーは80年代より美術批評を始め、美学者という立場から現代美術へのアプローチを見せている。美術批評を行うダントーの中で美的経験の概念は本当に棄却されているのだろうか。シュスターマンの定義した問題と今日の美学のあり方を問う上で、ダントーの芸術論における美学と芸術哲学と美術批評の位置を明らかにする必要がある。


その上、ダントーは芸術終焉論を唱えてヘーゲリアンへの転向を公言している。ダントーがここにきてヘーゲル哲学を持ち出した意図はどこにあるのか、彼の芸術哲学と美術批評はいかに結びつくのかが問題となる。

http://www001.upp.so-net.ne.jp/artichoke/work/newman.html


◇ 金悠美『美学と現代美術の距離―アメリカにおけるその乖離と接近をめぐって』(東信堂

すでに久しい最先端美術活動と美学との乖離―現代美術は果たして「反美学」か?それとも従来の哲学的美学を超える革新なのか?米日美学誌の資料調査、またニューマン、グリーンバーグシェスターマンら、代表的作家、批評家、美学者の言説を通じ乖離の実態と本質を追究すると共に、新たな視座から現代美術の哲学的特質を追究するダントーの裡に乖離超克の営為を探る力作。

http://www.amazon.co.jp/dp/4887135424


◇ 美学と現代美術の距離―アメリカにおけるその乖離と接近をめぐってのOmni-Traxさんのレビュー - Amazon.co.jp

大阪在住の気鋭の美学/美術研究者による待望の論集。


本書のサブタイトルが示すように、第二次世界大戦以後、世界のアート・シーンを牽引したアメリカ合州国における美学の動向の検証と分析が本書の中心的な課題となっている。第1章では1950年代の分析美学の擡頭から、アーサー・ダントーの「アートワールド」論を経てジョージ・ディッキーの制度論へと展開する現在の美学の中心的な問題構制と方法論を概括し、本書全体の議論のパースペクティヴを提出している。第2章ではアメリ美学会の中で分析美学が主流となっていく歴史的変遷を「制度」という側面から問い直し、続く第3章ではアメリ美学会と日本の美学会との交流を時代を追って検証することで、分析美学へと傾倒したアメリ美学会の変容を明らかにする。第4章では「画家にとっての美学とは、鳥にとっての鳥類学にすぎない」というバーネット・ニューマンの批判を端緒とする美学研究者と芸術家との乖離を検証し、第5章では美学の言説に多大な影響を与えたジョン・デューイプラグマティズム美学への検討を加え、最終章で美学研究者であると同時に有力な美術批評家でもあるダントーを論じ、彼の言説の変遷とその可能性の中心を、美術批評という同時代美術との相互干渉的な言説実践の関わりの中で読み解いている。


美学言説と同時代美術との接点を見出し、そのダイナミズムを剔出する4、5、6章は、議論の運びもスリリングであり、本書の白眉と言えるだろう。また、第1章の記述も簡潔にして要を得たもので、こうした主題に不案内な読者にも十分な見取り図を与えてくれる。


学術書という性格上、最低限の専門用語や基本的な歴史的事実についての知識は必要だが、記述が丁寧で全体として読みやすく、専門的な美学研究者から、これから美学や同時代美術について学ぼうとする入門者にまで広く薦められる一冊と言えるだろう。

http://www.amazon.co.jp/review/R2V4MLPQ4VZ8NV



>>>『美と芸術のシュンポシオン―神林恒道教授退官記念論集』(大阪大学美学研究会 編 勁草書房
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20100803#p3