Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

モア・アンコールズ ──私的クリスチャン・マークレイ史 1984〜1997── 大友良英

 中心点を置くことで差別と純化の世界像を作り上げていた私にとって、クリスチャン・マークレイは、初めて他者の存在を教えてくれた人であったわけだ。“Record Without a Cover”を前に、私は音楽を聴かずに、レコードだけを見詰めながら、自分の中の中心点を相対化する作業をはじめた。他者は存在するのだ。そして他者こそが自分を規定する。しかもその他者は複数な上に多様なのだ。それまでクリアであった世界像は、この時すでに亀裂だらけになっていた。こんなもん叩き壊してしまえ!
(中略) この時は、中心点から見るのではない視点をどう作れば良いかを考えるだけで精一杯だった。クリスチャンの仕事の中に私はそれを発見しようとしていたのだ。その上で、私は自分の中に2度と教祖も教義も作るまいと考え出していた。私が勝手に教祖に祭り上げてしまった人物と私は、この頃、案の定、仲たがいをしてしまう。今考えればものすごくわかりやすい父殺しって図式だ。同時にクリスチャンを次の教祖にしてしまわないための努力をしていた。実際中心点や教義なんてないところで何かを見、理解していくのは、そうそう簡単な事じゃない。他者との関係は常に流動的だし複合的だ。それはピュアな中に見える光を美しいと思うことではなく、現実の様々な関係の中から、輝く何かをたえず発見する努力を必要とするからだ。

『CHRISTIAN MARCLAY MORE ENCORES』(LOCUS SOLUS盤)ライナーノーツの解説より抜粋
http://www.boid-s.com/locus/locus2/locussolus.htm
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000080CF(※こちらは大友さんの解説なし)


◇ Record Without a Cover
“代表的な録音作品に、レコードをジャケットなしで流通させ、その過程で
盤面についた傷による音をも作品に取り込む「Record without a Cover」(1985)”
http://variations.jp/main/02artist/ChristianMarclay/index.html
http://www.yogiga.com/yukie/11_review/04_NewGeneration/04_New-1-1.htm