Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

再録(http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080715#p5)

■フリードリヒ・キットラー『グラモフォン・フィルム・タイプライター(上)』より

 テープレコーダーによる革命は、いわゆる聴衆における体験というレヴェルですむはずがなく、とうぜんスパイによる通信にまで及んでいった。モールス信号の受信機を扱う者は、ピンチョンによれば、「送り手の手の個性を聴き分けることができる」という。それと同じ考え方で、国防指令総本部の防諜部門は、とりあえずハンブルク近郊のヴォードルフ放送局において、「スパイに外国での秘密任務を与えるまえに、すべてのスパイのモールス信号における『手跡』を記録しておく」ことにした。カナリスの部下達は、自分たちの側の「スパイこそがたしかにモールス信号機の電鍵のまえに座っているのであって、敵側の通信員ではない」という保証を、彼らの打音を記録したテープレコーダーと照合することによって得ていたのである。

 現在の音楽や音響は、世界大戦のときのテープレコーダーによって開発されたものである。テープレコーダーは録音と放送、蓄音機とラジオをこえて、シミュレーションの帝国をつくりだした。押収したドイツ軍のマグネットフォンを、計画中の大きなコンピューターのなかにデータ保存装置として組み込もうとしたのは、ほかならぬイギリスのテューリングであった。テープレコーダーには書き込み用のヘッド、読み出し用のヘッド、消去ヘッドがあり、再生と巻き戻しができるから、万能テューリング機械(UDM)のペーパーロールとまったく同様に、データをいかようにも操作できるのである。

http://www.amazon.co.jp/dp/4480090347


松岡正剛の千夜千冊『グラモフォン・フィルム・タイプライター』フリードリヒ・キットラー
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0529.html


>>>“デジタル・テクノロジーはひょっとしたら
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20070424#p2


>>>コンピュータ・グラフィックス 半ば技術的な入門  フリードリッヒ・キットラー
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20070503#p4


>>>ナイーブに「デジタル/ケミカル」を論じてみたり、「デジタル=新しい」とみなすような態度は、
http://d.hatena.ne.jp/n-291/20070729#p12