■写真とアーカイヴ――ドイツ写真の現在展を見る――Between Image and Reality(神戸大学文学部 芸術学准教授 前川修)
まず、複数の極の間でドイツ写真を考える必要がある。ドイツ写真の70年代以降の成功には実は、先にあげたシュミットらが活動したベルリンの写真状況、そしてエッセンのフォルクヴァンクシューレを拠点とした主観主義写真、この二つが必要不可欠であった。とくに後者は、主観主義写真全盛のもとでベッヒャーが孤立して活動していた50-60年代とは対照的に、ほとんど省みられることがないのが現状である。また、ドイツ写真における同時代のアメリカ写真の影響(例えばニュー・トポグラフィックス等)も言及されることの少ない問題のひとつである。そして、先に指摘したように、写真が美術、とくに絵画というメディアとどのような関係を取り結んでいるのかという問題、それは、デュッセルドルフ芸術アカデミーという文脈ばかりでなく、――写真が美術として認知されるのが比較的遅かった――ドイツという文脈を考えるうえで不可欠の補助線であろう。
最後にもうひとつだけ、本展のテーマと緊密に関わる観点として、アーカイヴという問題を挙げておきたい。ベッヒャー夫妻の膨大な写真アーカイヴ、そして彼らが撮影の際に同時に調査していた工場写真のアーカイヴ、あるいはグルスキー、シュミット、デマンドが直接的、間接的に流用するメディアにおける写真、さらにはティルマンスが独自のカテゴリー分けをして撮りためている写真アーカイヴ、ルクスが前提にする子どものイメージのアーカイヴ、このように、現実とイメージを媒介しているイメージのアーカイヴという視座は本展のもうひとつの軸になっているのではないだろうか。「現実とイメージの間」、そこに介在する無数のイメージ、これも、写真のそのつどかわりゆく「現在」を現実的に(アクチュアルに)検討する鍵になるかもしれないのである」。
http://homepage1.nifty.com/osamumaekawa/stereodiary81.htm
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