青木画廊をへて「かんらん舎」というユニークなギャラリーを創設した大谷芳久さんは、ハミッシュ・フルトン、トニー・クラッグ、ダニエル・ビュランといった海外アーティストを精力的に紹介していたのだが、1993年に画廊活動をきっぱりやめてしまった。日本の美術業界の体質にうんざりしたようだ。以来、鉱物を集めるほうに転じた。きっかけは黄鉄鉱と出会ったことにあるそうで、現代美術の作品を上回る造形美に惹かれたのだという。寿司と同じで「光りもの」から入ったらしい。
その大谷さんがときどき買い付けに行く凡地学研究社(かつて千駄木その後に大塚)は、先代から続く75年目の鉱物老舗で、菊地司さんが仕切っている。学校教材の鉱物標本を長らく作っていたのだが(ぼくも3種類ほど標本箱を持っている)、いま700種くらいを扱っている。そういう菊地さんにとっても鉱物の種類を数えてるのは難しい。通例、いちばん少ない数え方でも4000種になるのだが、これはたとえば、水晶・アメジスト・瑪瑙・碧玉をすべて石英1種類と数えたばあいで、実際にはきっと数万種を超えている。
たくさんの鉱物に出会うには、鉱物屋やミネラルショーを訪れるのがてっとりばやい。が、やはり圧倒されるのは博物館で、東京の国立博物館は3万点ほどだが、パリの自然史博物館は24万点、スミソニアンは鉱物だけで35万点、岩石で18万点、宝石やその原石だけでも1万点がある。1週間をかけて見るほどなのだ。