Übungsplatz〔練習場〕

福居伸宏 Nobuhiro Fukui https://fknb291.info/

修士論文中間発表原稿 芸術学専攻 西翼

 まずは修士課程での研究テーマを「クレイグ・オーウェンス「アレゴリー的衝動」から考察するポスト・モダニズム芸術」と仮に決定し、本日の研究発表をはじめさせていただきます。
 昨年度提出した卒業論文では固有の場所に向けられた芸術表現を考察するために、ロバート・スミッソン、ロバート・アーウィンの作品と著作を研究対象とした。この論文ではある場所で芸術作品を制作する過程で、スミッソンとアーウィン両者がどのような理論や背景をもってそれを行っていたか検討したものである。そのため論の焦点は具体的な場所や条件、状況の分析に終始した。修士課程での研究では、再度ロバート・スミッソンを研究対象とし、固有の場所、サイト・スペシフィックを芸術表現の中に取り入れたスミッソンの制作の背景にある「アレゴリー的」思考を考察する。スミッソンの作品、著作に通底しているものを「アレゴリカル」であると評したクレイグ・オーウェンスの「アレゴリー的衝動」(The Allegorical Impulse: Toward a Theory of Postmodernism、1980年)では、ヴァルター・ベンヤミンの著作から引用が行われ、「廃墟」というスミッソンとベンヤミンの共通のモチーフが提示される。(この点は後ほど具体的に検証例として示す。)そこでスミッソンの「アレゴリー的」といわれる思考方法、制作方法への導入として、まずオーウェンスの「アレゴリー的衝動」を分析することが本研究の出発点として位置づけられる。その後、ベンヤミンの著作の中から「アレゴリー的思考」がどのようなものであるか検討する。ベンヤミンの思想はその対象や領域が多岐にわたる為、山口裕之(ひろゆき)著『ベンヤミンアレゴリー的思考』(人文書院、2003年)で示される要点や構図を参照し文献を選択する。ベンヤミンの著作から「アレゴリー的」であることそれ自体への理解を深め、その実例としてスミッソンの制作活動、執筆活動を分析し、「アレゴリー的衝動」並びにポスト・モダニズム芸術の理論を分析する。

 次に研究の進め方を説明する。オーウェンスがOctober誌に発表した論文「アレゴリー的衝動」でポスト・モダニズム芸術作品の特徴としてアプロプリエーション(盗用)と、サイト・スペシフィシティが挙げられている。この二つの特徴が表題である「アレゴリー的衝動」によって生み出されるという事である。オーウェンスはアレゴリーをもともとは文学の構成要素として捉えており、あるテキストを通して読み取られる別の意味内容を生み出す効果を持つものと考えた。断片的で不完全であっても、そこに示されているものと別のテキストを想起させるものがアレゴリーということである

西翼|Tubasa Nishi
多摩美術大学大学院美術研究科芸術学専攻。自宅を週に一度開放し友人の友人たちとプロジェクトを構想するための喫茶スペース「centre」や多摩美術大学大学院生のグループ「POWDER 2011」を共同で企画・運営。

http://www.tamabi.ac.jp/idd/2011-inn/31151134/index.html